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 王位戦最終第7局は完璧な内容だった。

 先手番を握った豊島名人がエース戦法の角換わりで新構想を見せて、1日目から攻め込んだ。しかし2日目、木村王位は最強の受けで攻めを跳ね返した。

 後手番でも「自分らしさ」を出せる展開に持ち込んだのだ。「自分らしさ」を出せる展開に持ち込んだ木村王位の対局姿は自信に満ち溢れていた。

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 いままであと一つで涙を飲んでいた人とは別人のようだった。

 貫いてきた信念で「自分らしさ」を出し、豊島名人の厚い壁を破って悲願の初戴冠となったのだった。

第7局後、家族への感謝について「帰ってから言います」と答えた木村王位 ©文藝春秋

「日程、変えよっか?」「執筆のネタが出来たんじゃない」

 筆者がイベントで「木村王位らしさ」を感じた出来事を2つ述べたい。 

 先ほどのイベント前にお祝いを告げた話には続きがある。

 お祝いを告げた後、近々に開催される身内でのお祝い会を欠席する旨を筆者から伝えると、「そうらしいね、日程、変えよっか?」とすぐに返され、いま将棋界で一番忙しい人に気を使われてしまい恐縮であった。

 またイベントの途中で木村王位に「(木村王位がタイトルを獲得して)執筆のネタが出来たと思ったんじゃない?」というフリをされた時は、会場大爆笑だったが、筆者は笑いつつヒヤリとしていた。

 記事を本人に読まれるのは気恥ずかしさを感じるものだ。

 しかしイベントでもお話ししたように、筆者はファンに喜んでもらうために記事を書いている。だからこの記事も本人に読まれる気恥ずかしさは忘れるようにした。

 ファンを喜ばせることを大事にする、それが若い頃から木村王位に教わってきたことなのだから。

終始和やかなお祝いムードだった「観る将ナイト」 ©野澤亘伸

では防衛戦の挑戦者は誰になる?

 さてここから、ちょっと気が早いが来年の防衛戦のことを考えてみたい。

 イベントで木村王位に次の挑戦者の話を振ったときは残念ながらはぐらかされてしまった。そのとき筆者の頭には具体的に3人の顔が浮かんでいた。

 一人は、タイトル戦で何度もあと一歩まで追い詰めながら届かなかった、タイトル通算99期の羽生善治九段。

 もう一人は、初めて登場したタイトル戦で4連敗を喫した、現在最強と目される渡辺明三冠。

 そしてもう一人は、10代でのタイトル獲得を狙う将棋界のスーパースター、デビュー29連勝を記録した藤井聡太七段だ。

 どの棋士が挑戦者として名乗りを上げても、フィクションでもなかなかお目にかかれないほどの物語になる。

 そして観る側にとって、これほど興味を惹くカードもなかなかない。

 しかし挑戦者がどれほど注目されたとしても、「観る将ナイト」でのあの盛り上がりを思い返せば、ファンは再び木村王位を後押しするはずだ。

 筆者はそう確信している。

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