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2019/10/31

健康な乳房、卵巣・卵管を切除したアンジー

 過日、女優のアンジェリーナ・ジョリーが、自身の遺伝子検査の結果に基づいて、がん化の可能性が高いとされた乳房などの切除手術を行うという決断を下して話題になっていました。

なぜアンジェリーナ・ジョリーは健康な乳房、卵巣・卵管を切除したのか
https://president.jp/articles/-/15072

切除手術を行なったハリウッド女優、アンジェリーナ・ジョリー ©︎getty

 しかしながら、仮に遺伝子検査の結果として80%近い確率でがんになる可能性があるからと言って、それが30代のうちにがん化するものなのか、80代になってからなのかは分かりません。あくまで、生涯を通じてがんに任意の臓器が罹患するおおむねの確率を示すものであって、自分の人生を将来まで見渡したうえで「がんになりやすいのかどうか」を判定する方法としては意外に不正確です。

 よしんば、仮に読者が「いま30代であるあなたは、50代以降に40%の確率で胃がんになるリスクがあります」と言われた際に、その40%というのを大きいと思うか、たいしたことがないと感じるかは受け止める側の感覚・感情に委ねられています。リスクを大きく見積もる神経質な人であれば、いまにも死ぬかもしれない死刑宣告を受けたと思うかもしれないし、気にしない人ならば「いまがんでないならいいや」とそのまま酒を飲みに行くかもしれません。

医療と向き合う人間としてのリテラシー

 私自身も、脳動静脈流奇形(AVM)という持病を持っています。頭の中に蛇行した血液から漏れ出た石灰質の2cm大の白い球が、脳の血管にブラブラぶら下がって周辺の脳みそを圧迫するというしょうもない先天性の脳の病気なのですが、これが発見されてから、医師には「あなたは年間2%程度、脳内出血を起こして命の危険に晒されるリスクがあります」と宣告をされています。

 それもあって、なるだけ血圧を上げないように、水分が不足しないように、なるだけ家族その他と一緒にいる時間を増やして倒れてもすぐに運ばれるようにという制限のある人生を送り始めることになったのですが、それでもやっぱり満員電車でジジイに押されるとムカついて怒鳴るし、路上喫煙禁止の千代田区でタバコを吸って歩いているおっさんを見かけると正面から注意しに行きます。

 昔ほど酒は飲まなくなったけど、でもやっぱり楽しい会合に呼ばれれば嗜みますし、子どもたちを連れて家族で山に行けば一緒に野原を走ったりもする。確かにリスクとは隣合わせではあるけれども、後悔しないでしっかりと生きていきたいと思えばこそ、限りある命を精一杯生きたいと感じるのです。

 医療情報というものは、そういうものだときちんと受け止めて人生をより良くしていくためのものであって、血液クレンジングであれ遺伝子検査であれ、医療と向き合う人間としてのリテラシーが問われている場面だと思うんですよね。

©iStock.com

 医療情報の恐ろしさというのは、間違った医療情報で命を落とすだけでなく、不適切な療法を信じて精神がかき乱される患者本人や家族がいるということです。つまりは、死に対する恐怖や美に対する渇望をテコに、特に裏付けのない医療法を喧伝しカネを集めて施術してしまうことが問題であるので、上手くその辺のリスクを判断し付き合えるぐらいの開き直った患者に対してのみ、実施できるような仕組みがあるといいなと思います。

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