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東大卒“畑に入らないマネージャー”が「農業はポテンシャルの宝庫」だと言いきれる理由

『農業新時代 ネクスト・ファーマーズの挑戦』

2019/11/02

数字ベースのコミュニケーションも生まれた

 どんな商品がどれだけ売れた、というデータもなかった。作ったものを農協に卸していれば詳細な売り上げデータは不要になる。しかし、直売をメインに据えているからには、何が売れて何が売れていないかを把握しないと、ニーズの変化に対応ができなくなってしまう。そこで、タブレット端末を使ったPOSレジ「エアレジ」を導入して一元管理した。さらに会計はクラウド会計サービス「freee」を使い、手間とコストを大幅にカットした。

 スタッフの作業時間や内容も、ざっくりとしか管理されていなかった。そこでその日の仕事内容を1時間単位で記した指示書を渡し、時間軸で何をしたのかを記入できる日報を用意して、提出を義務付けた。手書きだったスタッフの勤怠管理には、会計と同じクラウドサービス「freee」の人事労務ソフトを導入した。

 業務のカイゼンで、「めちゃくちゃ効果があった」というのは、作業時間の集計だ。

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「記録してその数字を吟味すると、時間の使い方にも緊張感が出るんですよね。それが全体のスピードアップにつながりました。数字ベースのコミュニケーションも生まれました。去年、人工授粉は何百時間かかったから今年はそれを少し削った目標を立てて、それをいつから始めていつ頃終わるかという進捗管理をしてくれる? とお願いできるようになった」

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梨の木にIDを振り、配置図で現状を把握

 佐川のアイデアで、阿部さんが「すごい!」と感心したのは、梨の木にIDを振ったことだ。梨の木の配置図「圃場マップ」を作り、縦軸に数字、横軸にアルファベットを振った。さらに、梨の種類ごとに色分けした。それまで梨の木に何か問題が発生した時に、「あの畑の左奥の何番目」というわかりづらい指示しか出せなかったのが、このIDによって「Eの6の木で虫が出ましたよ」とピンポイントで位置を共有できるようになった。

 業務をスリム化したことも仕事の効率を高めた。阿部梨園では梨園での店頭販売、電話、FAX、郵送による通販がメインだった。贈答用にいくつかのメニューを用意していたが、5キロパック用の箱に6キロ入れてほしいなど、メニューにないオーダーを出してくるお客さんへの個別対応をやめた。作業、会計の手間が増えるからだ。送料の区分も減らし、煩雑な送料計算もやめた。それまで白紙にフリーハンドで注文を受けていたのも、注文票を作って対応した。これによって顧客との余計なやり取りをする必要がなくなった。

 こうした農作業や事務作業の合理化を進めながら、梨のプロモーションも同時進行。カタログやホームページ、ダイレクトメールの見直しは、佐川が自ら担当した。プロモーションで意識したのは、情報を詰め込むのではなく、わかりやすく整理することだ。さらに、オンラインショップもオープン。今ではオンラインの売り上げが3割にのぼる。

2年間で改善した項目は500を超えた

 経営がスリム化し、直売が伸びれば利益率が高まって、経営状態も上向きになる。阿部さんはそこで投資を惜しまず、佐川のほかにフルタイムのスタッフを2人採用した。

 最終的に2015年から2年間で、阿部さんと佐川が改善した項目は500を超えた。