羽生九段とは、深浦九段にとってどういう人なのだろうか
深浦康市と羽生善治のカードは、タイトル戦でも6回実現している。
王位戦で3回(37期、48期、49期。37期は羽生九段の勝ち。48、49期は深浦九段の勝ち)、棋聖戦で2回(81期と82期。ともに羽生九段の勝ち)、王将戦で1回(58期。羽生九段の勝ち)。
大舞台でも数々の名勝負を繰り広げてきた羽生九段とは、深浦九段にとってどういう人なのだろうか。
深浦 自分が棋士になる前からタイトルホルダーですし、常に第一線にいる方ですからね。年齢は2歳くらいしか違わないのですが、常に目標にしている方です。タイトル戦ならいちばんいいんですけど、そうでなくても年に1、2局は指したいなと思って、モチベーションを上げています。
――羽生さんと当たるのは、やはり特別な感情はありますか。
深浦 そうですね。感想戦で終盤の読みを披露してもらうんですが、それがめちゃくちゃ速いんですよ。「こうやるつもりでした」というと「それならこうですね」とパパパパと十数手先まで示されたりとか……。「打てば響く」という感じで、羽生さんと対局するのは楽しいなぁと思うようになりました。
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「打てば響く感想戦」がしたくて、また羽生善治と対局したい――。何度も対戦した当人だけが語れるエピソードであろう。深浦九段は、解説のときに棋士の意外な一面を披露することでも人気だが、そんなエピソードのひとつに羽生九段の「アイスクリーム」の話がある。
タイトル戦の対局時、羽生九段がデザートでアイスクリームを頼んだが、将棋に集中するあまりに、なかなか手をつけない。どんどん溶けていくアイスクリームのことが、深浦九段は気になって仕方ないが、羽生さんは一向に気にしない。そしてアイスクリームは完全に溶けてしまったのだが、羽生さんはそのバニラジュースと化したアイスクリームを「ズズズ」と飲み始めたという。これを見た深浦九段は「この将棋は負けそうだな」と思った――というエピソードだ。
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深浦 羽生さんのエピソードは他にもいろいろありまして、北海道での王位戦の対局時、ホテルの部屋に露天風呂があったんですよ。自然豊かなところにある宿だったので、羽生さんの部屋の露天風呂に鳥が迷い込んできたんです。そしたら羽生さんは、葉っぱをすくう網でその鳥を捕獲したそうです。
――羽生さんが鳥を捕まえた(笑)。
深浦 関係者の方も「やっぱり羽生さんはすごいな」と感心していたので、なんか自分のなかにも張り合う気持ちが出てきて、自室に戻って「鳥は迷い込んでいないか」と確認したんです(笑)。
「みんなが『羽生さんは強い』と語っていても面白くありませんから」
解説の仕事も多い深浦九段は、“観る将”からの支持率がとても高い棋士の一人でもある。「みんなが『羽生さんは強い』と語っていても面白くありませんから」という深浦九段。ファンを楽しませたいという気持ちを常に抱いている棋士という一面を、今回何度も見た思いがした。
最近、将棋観戦中にクライマックスを見逃さずにお風呂に入るには、深浦九段にタイミングを聞くのがもっとも信頼できるという将棋ファンの記事も話題になった。
深浦 お風呂の件は、文春さんの記事を読みました。いままでは軽いノリで「入らない方がいいですよ」とか「いまがチャンスです」とか言ってたのですが、これからは真摯にお風呂問題を見極めたいと思います(笑)。
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実は今回の原稿で「地球代表」というフレーズを使うのは、深浦九段に失礼ではないだろうかと少し危惧していた。しかし先日「ニコニコ生放送」に出演されていた深浦九段が、浦野真彦八段からもらった年賀状に「地球をよろしくお願いします」と書いてあったというエピソードを楽しそうに披露されていたので大丈夫と思うことにした。「地球代表」はファンだけでなく、棋士の間でもけっこう広まっているようだ。
写真=深野未季/文藝春秋
INFORMATION
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