「会場でTシャツを買ってくれた人と写真を撮って握手をするというのをやっていたのですが、その中にKがいたのです。そこで手渡された(ものの)中に大麻が入っていたのです」。
このKは売人であった。また電話番号を書いたメモも一緒に入っていたという。逮捕される半年前の、2010年3月のことだ。そして田代まさしは「辛い気持ちから逃れたい」という思いと、「大麻くらいならという気持ちもあって」使用してしまう。
この大麻が覚醒剤へ、どうつながっていったか。後に一緒に逮捕されることになる女性が、同じ売人から大麻を購入した際にコカインも入手する。田代まさし曰く「大麻を買った時にサービスでつけてくれたと聞きました」。
とんだサービスであるが、大麻で「一線を越えてしまっていたので、どうせなら」という気持ちが働いて、コカインにも手を出す。裏を返せば、売人はこの心理をたくみに利用したといえる。
こんなふうにして、大麻からコカイン、そして覚醒剤へとエスカレートしていった。出所してからイベント会場で売人に出会ってしまうまでの、およそ1年9ヶ月間は薬物と無縁であったのに(その間に警察で尿検査などを受けているが検出されていない)。薬物依存症というのは、売人にしてみれば優良な顧客にほかならない。
かくして2011年に再び刑務所に収監されることになる。
2度目の出所時にあらわれた、とある“変化”
興味深いのは、最初の出所時と2度目の出所時に、田代まさしが書いたり、取材を受けたりしたものを読み比べると、本人の薬物依存症への考えが大きく変わっているのがよくわかることだ。
2008年に出所した際は、たとえばこんな具合である。「『ダルクなどの薬物依存専門のリハビリ施設に入るつもりはないし、自分で治せる自信もある』と言ったことも物議をかもしたようだ。別に医師に相談したりアドバイスを受けることをも拒否するわけではないのだが、今のところは自分で薬物依存から脱却できると思っている」(注4)。