「忘れられたくない」という子どもの頃の恐怖心
――ダンスと芝居は小林さんにとってどのようなものなのでしょうか。
小林 なぜか小さい頃から、僕には「忘れられたくない」という恐怖や強い初期衝動があるんです。それは今でも解消されていない。また、それとは別の話ですが、昔、どこかで何かを見て、ものすごく心にインパクトを受けたことがありました。そこで何か決定的な傷がついてしまったんですね。それは一生消すことができない。
今、もし僕が逆の立場になって、どこかの誰かに何か影響を与えられるのだとしたら、忘れられないようなインパクトを与えたい。それはもしかしたら、ネガティブな意味かもしれないし、ポジティブかもしれない。
たとえ小林直己という名前は忘れたとしても、その人の中にその記憶は残る。これまでも僕はダンスをそう願いながら踊ってきました。
芝居だったら、さらにそうした自分の過去や弱さや傷も昇華することができると発見したし、それは、役者としての個性ともなり得るんじゃないか。芝居じゃなければできないことがあり、それは僕のダンスという表現の延長線上にあるのだということに、今回『アースクエイクバード』に参加することで気づくことが出来ました。
そして、そうした切実なところから出てくる表現は、強靭で、ナイーブで、誰にも否定できない強さを持っている――だからこそ人は惹きつけられ、共感するんだと思うんです。映画はプロフェッショナルが集まる総合芸術ですが、レンズの前で演じるときに、僕は自分をまるごと捧げることが自分の役割だと思っています。
昔から、自分には何かを創り出す才能も、天から降りてくるようなものもなくて、身ひとつで、踊るしかなかった。人生を切り売りすることで食わしてもらっている、いわば自分自身を売っているわけだから、自分に対して嘘をついちゃダメだって前から思っているんです。
――謙虚ですね。
小林 禎司がカメラを通して探していたものがあったように、自分には、非言語表現のダンス、言語表現の文章、そして芝居を通して、ずっと追いかけているものがあるんです。踊りではその理想の影みたいなものを追いかけていました。動けば消えてしまうような儚いもので、それは一種の『願い』のようなものなのかもしれません。
『アースクエイクバード』は、国も言語もバックグラウンドも異なる人たちが集まった現場で、とても刺激的な時間でした。映画は100年先も残りますし、僕も、もうこの世にはいない人たちの作品を観て影響を受けてきました。これからも、日本はもちろんのこと、国の枠を超えて、その何かを探し続け、届けていきたいと思っています。
こばやしなおき EXILE / 三代目J SOUL BROTHERSパフォーマーとして全国ライブツアーなど精力的にアーティスト活動を行う。パフォーマー以外に役者としても活動し、舞台にも積極的に参加、劇団 EXILE 公演のほか、2013年2月より行われた「熱海殺人事件 40years' NEW」(つかこうへい 作・岡村俊一演出)にて大山金太郎役を熱演。各方面より好評を得る。2017年からは俳優として本格的に活動をはじめ、「たたら侍」(2017年)「HiGH&LOW」シリーズなどに出演。現在、Netflix 映画「アースクエイクバード」(配信中)に主演の1人として参加している。日本のみならず、アメリカにおいても俳優として活動の場を広げている。