愛に飢えたヤクザと娼婦が朝食を食べるシーンの美しさ
今回の東京国際映画祭で、小林さんは二つの作品でレッドカーペットを歩いている。ひとつは『アースクエイクバード』、そしてもうひとつが『その瞬間、僕は泣きたくなった』(全国公開中)だ。『その瞬間~』は、EXILE HIRO率いるLDH JAPANと、俳優の別所哲也が代表を務める「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」、作詞家・小竹正人がコラボレーションしたオムニバス映画『CINEMA FIGHTERS project』の第3弾。詩と音楽、映像を融合させた5編の短編作品から構成されており、小林さんは行定勲監督の『海風』に主演している。
――『海風』は、横浜の風俗街を舞台に、愛を知らずに育ったヤクザの蓮(小林さん)と中年の娼婦(秋山菜津子)を描いた作品です。行定監督は、小林さんの役柄をヤクザか刑事にしようと思われていたそうですが、小林さんの後ろ姿や背中が記憶に強く残りました。肩で風を切って街を歩く姿、客から酷い扱いを受けて傷だらけになった中年の娼婦を背負って明け方の商店街を歩く姿、アパートの廊下で彼女の帰りを待つ背を丸めた姿、刺青の入った剥き出しの背中、海に向かって真っすぐに立つ後ろ姿……それにしても、娼婦の蘭がつくる朝ご飯を二人で向かい合って食べるシーンは美しかったですね。
小林 監督はあのシーンを撮りたかったんだそうです。朝の光の中でヤクザと娼婦が一緒に朝ご飯を食べるというシーンが。一緒に食事をする、咀嚼をするシーンって、魂を食べあっていると思うんですよね、その瞬間に。彼女の作る丁寧で、飾り気のない、とても美味しい食事を食べたときに、一緒に彼女の魂も食っているんだと思うんです。
――そして、また実に美味しそうな、気持ちいい食べっぷりですよね。
小林 監督にも言われたな(笑)。意識してないんですけど……食いたくなっちゃった(笑)。
――束の間の温もりの後、悲しみのクライマックスで、小林さん演じる蓮はある思いがけない行動に出ますが、これもご自身のアイデアだったそうですね。
小林 それも「食べることは、お互いの魂を食べあうことだ」ということから発想したことです。
――侍は、刀を抜いたら最後――生きるか、死ぬかどちらかですが、小林さんの演じるヤクザも、禎司も、静かながらそうした「刀を抜いたら最後」という佇まいを持っています。
小林 自分が影響を受けてきた人たちは、みんな「抜いたら最後」の人ばかりです。時代劇に初めて出演するときにお世話になった杉良太郎さんも、HIROも、AKIRAも、デザイナーのヨウジヤマモトさんも、うちの親父も、みんなそうですね。
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今年の夏、小林さんが読売新聞の「STOP自殺 ♯しんどい君へ」に答えたインタビューが話題になった。その中で、小林さんは高校時代、一時不登校になった時期があったことを明かし、そのときに兄から「とにかく家にいるな、渋谷に行け」と言われて、変わることができたことを語り、「一歩踏み出して、外に出てほしい」と訴えている。ダンスを始めたのも高校生のとき。その原点はどのようなものだったのだろうか。