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連載昭和の35大事件

「かみつかれました」日本初の女性議員が国会で暴露した“酔虎事件”とは?

珍事件をめぐる「日本政治をも動かすGHQの勢力争い」

2019/11/17

source : 文藝春秋 増刊号 昭和の35大事件

genre : ニュース, 社会, 歴史, メディア, 政治, 国際

泉山は大臣室で大いびき 女性議員による「暴露演説」へ

 これが悪かったのである。あの時、アッサリ散会していれば、泉山事件は表沙汰にならず、翌日泉山が颯爽として泉山節よろしく、音吐朗々と提案理由の説明に立てばなんでもなかったろう。山下春江もあの暴露演説を翌日に持ち越しはしなかったはずである。ところが休憩したんで引込みがつかなくなった。

 泉山はその時大臣室で大いびき。厚相の林譲治、建設相の益谷秀次、農相の周東英雄等が泉山を抱きかかえるようにするけれどももう駄目である。この間野党の方では山下春江や社会党の松尾トシ等が実はかくかくの次第と党内でしゃべってしまったのでとうとう問題は表沙汰になってしまった。国会心理というやつである。

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 そうして10時近く本会議再開、社会革新党の成重光真が議事進行で発言を求め「泉山蔵相は泥酔して不謹慎な態度をとったという。政府は事の真相を明かにせよ」とやったので万事休すである。本会議はまた休憩。

 この間泉山トラ大臣は大臣室から一度安本政府委員室に居を移し、それからGHQに行くと称して大蔵大臣官邸や渋谷の自宅を転々として廻り、10時半頃又国会に帰り、医務室で注射をしたり、又大臣室に戻ったり、そんなにウロツイたために新聞社のカメラ班には酔態を撮られるし、新聞記者には追い廻されるし、全く散々の態であった。

トラ大臣の寝姿を眺めながら「泉山をどうするか」

 そうこうする中に10時半近く本会議が再開されてもトラ大臣の酔がさめぬので、とうとう問題がのっぴきならなく追い詰められ、野党も深追いせざるを得なくなり、山下春江の勢の赴くところ遂にあの暴露演説をぶたざるを得なくなってしまった。そうして首相の吉田茂が出て「誠に遺憾である。調査して善処する」といったのであった。そうして泉山はこの本会議で懲罰委員会に附されてしまった。

 こうして本会議は12時間際に散会となり、それからが閣議。トラ大臣は寝たまま、この寝姿を眺めながらどうするかの評定。泉山はウツラウツラ我身の審判を聞いていたという。大臣辞任論が多数を制したが、吉田は何も言わずに帰って行った。

 泉山が正気に返ったのは午前1時半頃。林譲治と益谷秀次が閣議の模様を伝えて辞めた方がよかろうといった。林に言わせるとその時泉山は辞任を承諾したといっているが、御本人の泉山に言わせると俺は総理に直接会って決心をきめる、いらんことを言わんでくれといったと述べている。

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