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連載昭和の35大事件

「かみつかれました」日本初の女性議員が国会で暴露した“酔虎事件”とは?

珍事件をめぐる「日本政治をも動かすGHQの勢力争い」

2019/11/17

source : 文藝春秋 増刊号 昭和の35大事件

genre : ニュース, 社会, 歴史, メディア, 政治, 国際

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「泉山が大トラになっているから出席を求めよう」

 泉山事件の起きた12月13日は、野党の不信任案も出来上り、翌14日の解散を控えたいわば第4国会審議の最終日なので議員は全くそわそわした気持ちであった。その時の重要案は総司令部の指示による公務員給与ベースアップの給与法改正案と、これに見合う追加予算の2つ。13日の深更か14日の朝には参議院に送り出されようという時であった。

 丁度衆議院の本会議は夕方の6時、休憩に入り、議員食堂は最後の日だというので全くの呉越同舟で酒を酌み交わして選挙の話でもちきり、その間筆者等は休憩中に開かれた議院運営委員会に出て再開後の議事について話合い、再開後はまず最初に「未復員者給与法一部改正案」を上程する。これは大陸や南方にまだ居残っている人達の家族に優遇の道を講じてやろうという法案だから超党派の案。だから説明は大蔵政務次官の塚田十一郎でよかろうと各派の間に話合いがついた。

 さて8時半過ぎにベルが鳴って本会議場に入ろうとすると、社会党の場内交渉係の笹口晃が筆者に耳打ちして泉山が大トラになっているから本会議を開いたら大蔵大臣の出席を求めようと思うから悪しからずとのこと。

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「大蔵大臣はどうした、泉山を出せ」

 さて本会議が開かれ、塚田が説明のため登壇すると同時にいきなり笹口が「大蔵大臣はどうした、泉山を出せ」とどなり始めた。そこへ運輸大臣として入閣したばかりの小沢佐重喜が大臣席から立って来て「大蔵大臣は実は酔払っているからなんとか穏便に済ませて、貰いたい。どうにか政務次官の塚田で勘弁して貰いたい」という。野党の方ではなかなかこれを聞こうとしない。

 そこで、笹口と筆者が「それなら今日はこれで解散しようじゃないか」といったが、そうすると解散が一日延びるというので小沢は傍の総理席の吉田の顔色を窺いつつどうしてもウンと言わぬ。山口始め自由党の連中はそれでもよかろうといった顔をしている。山口にしても、倉石にしても石田にしても前々の山崎猛事件などもあって党内では第二次吉田内閣には余りいい感じを持っていなかったからだ。小沢は、「では必ず大蔵大臣を出すから一寸休憩して呉れ」というので9時一寸前に休憩となった。

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