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恐ろしすぎる香港デモ――デモ参加者の“ネットさらし”に中国当局が関与!?

2019/11/15
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「ゴキブリ」憎悪むき出しの警察

 プライベートな生活が危険にさらされる住所や家族の暴露は、警察にとってはデモ現場で石や火炎瓶が飛んでくる以上に嫌な攻撃だろう。香港警察は8月ごろから振る舞いが荒っぽくなり、デモ参加者を「ゴキブリ」と罵るなど憎悪をむき出しにするようになったのだが、理由は中国政府や香港政府の意向を受けたことに加えて、ネットでの暴露行為に対する個人的な怒りも多少は影響していたかと思われる。

デモ隊にタックルし、押さえつける香港警察 ©︎getty

『香港解密』などの反デモ側の暴露サイトが登場したのも、デモ側の暴露行為への対抗策という側面もあったはずだ。ちなみに騒動の震源となったLは11月上旬に閉鎖。10月26日に香港高裁が警官の個人情報の暴露を一時的に禁止する決定をおこなったことの影響とみられている(注.ただし類似の行為は別のTelegramチャンネルで継続しておこなわれている)。

本家は「中国の反体制派」である

 ところで、中華圏の反体制的な勢力が権力側の個々人の個人情報を暴露するという手法は、香港が最初ではない。実は数年前から、中国の反体制派のネットユーザーたちがおこなってきた手法である。

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 比較的有名なところでは、『支納維基(シナウィキ)』や『悪俗維基(悪ふざけウィキ)』などが挙げられる。いずれも運営に携わっていたのは反体制的な10代~20代の中国人ネットユーザーで、『支納維基』は主に在外華僑、『悪俗維基』は主に中国国内の人々によって担われていた。いずれも中国国内では報じられない反体制運動や事件事故などの情報が「悪ふざけ」的な文体で大量に書き込まれているサイトだ。

 ちなみに余談ながら「支納」は、戦前に日本が中国への呼称として用いていた「支那」をもじったものである。

 現代の中国では抗日ドラマなどの影響もあり、「支那」という単語は非常に侮辱的な意味を持つ言葉として認識されているのだが、近年の中国大陸や香港の反政府的な若いネットユーザーの間では中国(=中華人民共和国)を故意に「支那」と呼んでバカにする行為が流行している。『支納維基』もそういう経緯で命名されたらしい。

習近平の娘の身分証番号も晒された

『支納維基』が最もヤバい点は、中国共産党の高官の個人情報が大量に暴露されていたことだった。真偽のほどを検証するすべはないのだが、習近平やその娘の習明沢の身分証番号や住所・生年月日(ほかに習明沢の場合は顔写真も)まできっちり晒されていたほどである。

 暴露行為は、『支納維基』と関係が深いかと思われるTelegramチャンネル「楚晨展覧館」で集中的になされており、たとえば『人民日報』の編集長や副編集長、中国国家インターネット情報弁公室の副主任や北京市部署のトップ、北京大学の共産主義青年団の書記……といった、中堅クラスの党幹部の身分証番号・民族・出身地・電話番号・現住所・学歴や職歴などが顔写真や身分証の写真付きで大量に公開されていた。

「楚晨展覧館」で暴露されていた北京大学共産主義青年団書記の顔写真と個人情報。「楚晨展覧館」のチャンネル登録ユーザーは2万人近くに達していた。