文春オンライン

特集観る将棋、読む将棋

「牙城目掛けて怒涛の如く」“ダンディすぎる棋士”中川大輔八段の武張った文体がすごい

「牙城目掛けて怒涛の如く」“ダンディすぎる棋士”中川大輔八段の武張った文体がすごい

棋力向上だけではない、“読む将”ならではの楽しみ方

2019/11/22
note

 定跡書。買ってしまうのである。中飛車や石田流にボコボコにやられ、なにくそと、対策用に「中飛車破り」「石田流破り」などと題された定跡書を買う。あるいは、もっと楽に攻め倒せる戦法はないものか、という思いから、「急戦矢倉」の本なども買ったりする。奇襲戦法にハメられ、頭に来て奇襲対策用の本も物色する。

©︎文藝春秋

 で、そうして買った本を、実は、精読はしないことをここに告白します。一通り最後まで読む場合ももちろんあるけれど、多くの場合が、パラパラと気になる部分を拾い読みして、「ま、基本俺は『観る将』だし」と言い訳しつつ、割ときれいなまま本棚の肥やしにしてしまう。

 そんな読み方だから、当然棋力は上がらない。上がらないのだけど、新しい定跡書が発売されると、つい気になって、どれどれと手を伸ばしてしまう。私はいいお客です。

ADVERTISEMENT

灼けた肌にはダンディな男の色気が漂う

 買えども強くはならない。が、気づいたこともある。定跡書にも「文体」や「スタイル」があるということに。正確にいうと、独特の文体やスタイルで定跡書を書く先生がいる、ということに。

 中川大輔八段が、そのお一人である。

 逸話には事欠かない棋士である。順位戦での行方尚史七段(当時)との死闘や、NHK杯での羽生善治二冠(当時)との激闘、からの頓死などは、多くの将棋ファンの知るところだ。強い駒音には闘志が漲り、灼けた肌にはダンディな男の色気が漂う。登山を愛する体育会系棋士であると同時に、粋なスーツをさらりと着こなすオシャレなLEON系棋士。

着こなしにも定評がある中川大輔八段 ©︎相崎修司

 そんな中川八段が物する定跡書は、一言でいうと、剣術の指南書、である。とにかく文章の端々に武張った雰囲気が漂っているのだ。

いかにも和のテイスト、武張った趣が出ている

すぐ勝てる! 矢倉崩し』(マイナビ出版)という本を見てみる。これは、中川流右四間飛車で矢倉囲いを崩すことを主眼にした定跡書なのだが、戦法の骨子を説明した「はじめに」の章から、早くも他の棋書には見られない、独特の雰囲気が出ている。

 定跡書には、肝となる局面の図、いわゆる途中図というものがつきもので、それらは、第1図、第2図という具合に番号が振られるのが相場だ。しかし、中川八段の本は違う。まず、「春図」とあって驚く。以下、夏図、秋図、冬図と続き、雪図、月図、花図、さらには星、風、雲、霧まで出てくる。数字でもアルファベットでもなく、漢字。それも四季や景物を表す漢字を当てるところに、いかにも和のテイスト、武張った趣が出ている。