11月19日に行われた第69期大阪王将杯王将戦の挑戦者決定リーグ戦は、類を見ないほどの注目を集めた。4勝1敗で並んでいた広瀬章人竜王と藤井聡太七段の直接対決があり、勝った方が渡辺明王将への挑戦権を獲得する。藤井には最年少タイトル挑戦の記録もかかっており、多くの報道陣が集まった。
10代でタイトル戦に登場した棋士はわずか3名
王将リーグは定員7名、残留4名という棋界一の「狭き門」。しかも、今期は藤井七段以外の全員が順位戦A級在籍、そしてタイトル経験者という難関だった。
これまでのタイトル戦登場年少記録は別表の通りだ。最年少記録の屋敷伸之九段をはじめとして、10代でタイトル戦の大舞台に登場した棋士はわずか3名しかいない。そして10代でタイトルを獲得したのは、屋敷九段と羽生善治九段の2名しかいないのだ。
注目の一戦は広瀬が押し気味に進め、快挙を期待していた報道陣にも「これは次回か」というムードが漂う。だが、終盤で広瀬に手順前後のミスが生じた。一気に控室のボルテージが上がる。藤井の師匠である杉本昌隆八段も将棋会館に姿を見せており、「間違えなければ(藤井が)勝てると思います」と話した。
先に受けなしになったのは広瀬の玉だ。あとは藤井の玉を広瀬が仕留め切れるかどうか。検討では詰みなしと判断されていたが「危ない」という声も。わずか一手でも間違えれば奈落の底というのが将棋の怖さだ。
はたして、持ち時間を使い果たして「1分将棋」になった藤井にはツキがなかった。最後の最後で二択を間違えて、自玉がトン死してしまう。「これは仕方がない。そういう局面に追い込んだ広瀬竜王がすごかった」とは控室の声である。
対局後、藤井七段は詰めかけた多くの報道陣を前にして、
「うっかりしていました。最後に間違えてしまったのは残念ですが、それが実力かなと思います」
とかすかな声で語った。
なぜ最年少記録がここまで注目されるのか
「天才」と呼ばれる藤井七段にとっても、屋敷九段の記録を破ることは容易ではなかった。14歳2ヵ月でプロデビューを果たした藤井七段だが、タイトル戦登場の最年少記録を更新するチャンスは、あとは来年6月に五番勝負開幕が予定されている棋聖戦のみとなった。
同じく屋敷九段の持つ18歳6ヵ月という、タイトル獲得最年少記録は棋聖戦の他、次の王位戦、王座戦、竜王戦までにチャンスがある。
かつて神谷広志八段が記録した公式戦28連勝は、その30年後に藤井が更新するまで長らく不滅の記録と言われてきたが、屋敷九段の最年少記録も同様に思われていた。驚異の神童はアンタッチャブル・レコードを塗り替えることができるかどうか――。
そもそも、なぜ最年少記録がここまで注目されるのか。基本的に将棋界は「大器晩成」ではなく「栴檀は双葉より芳し」の世界だからである。藤井以外の中学生棋士は皆タイトルを獲得しているし、そもそも彼らはデビュー当時から時のタイトル保持者並みに強く「将来のタイトル間違いなし」と見られていたのだ。