1ページ目から読む
4/4ページ目

19歳4ヵ月で羽生王座に挑戦した渡辺明五段が……

 このまま永遠に羽生時代が続きそうとあるいは錯覚していたかもしれないような風潮の中、史上4人目の中学生棋士が風穴を開けにきた。2003年、19歳4ヵ月で第51期王座戦に登場した渡辺明五段だ。

 当時の羽生は王座の他、竜王、名人、王将を持つ四冠王。また王座戦では11連覇中と圧倒的な強さを誇っており、下馬評では羽生が圧倒的に有利だったが、第1局に惜敗した渡辺は続く第2局で圧勝し、風向きを変える。

 フルセットにもつれ込んだ第5局では渡辺にチャンスもあったが、羽生が辛くも勝利。最終盤で決め手を指そうとする羽生の指先が震えたことから、渡辺は「羽生を震えさせた男」として話題になった。そして1年後の第17期竜王戦で渡辺は森内俊之竜王を破り、20歳8ヵ月(史上3番目の若さ)で初タイトルを獲得することになる。

ADVERTISEMENT

 当時、駆け出しの記者だった筆者は、王座戦の第1局で感想戦を終えた渡辺が自室に戻るとき、廊下で「くそっ」と信玄袋をたたきつけたシーンを見た覚えがある。絶対王者を相手に善戦であろうとも、敗戦では意味がない。棋士の勝負にかける思いを見た気がした。

トップ棋士12名によるトーナメント・JT杯で2連覇を達成した渡辺明三冠 ©相崎修司

さらに覚醒した神童が

 仮に藤井が最年少挑戦を来年の棋聖戦で実現したら、その相手は渡辺だ。現在は棋王・王将・棋聖を保持する三冠王であり、直近ではJT杯でも優勝。またトップクラスの戦場で戦いながら、今年度は全棋士の中で唯一勝率8割を維持している。まさに現在最強の棋士であろう。

 もちろん藤井が最年少挑戦・奪取の記録を更新するかどうかは未知数だし、また待ち受ける他の棋士もそれをやすやすと許すつもりはないはずだ。ただ、強豪ぞろいの王将リーグで好成績を挙げたのは本人にとっても自信につながっただろうし、また先輩と指すことで得た経験も大きいはずである。

 藤井が「覚醒」したのは、デビュー直後に行われた「炎の七番勝負」で次々と強敵相手に指す機会を得たのが大きいとも言われている。今期の王将リーグがその再現になる可能性は低くないだろう。さらに一皮むけたであろう神童が、どのような戦いを見せるか。棋界の頂点にたどり着く日も決して遠くないはずだ。その日を楽しみに待ちたいと思う。

この記事を応援したい方は上の駒をクリック 。