「問題作」を落ち着いて見られる好機
「百代の過客」の展示会場は、旧中学校に限らない。古民家や旧映画館、旧支所など島内各所に点在している。観光客はそれゆえ、見知らぬ土地を歩き回る。それが街なか展示の楽しさでもある。
問題の大浦作品は、版画「遠近を抱えて」が旧中学校の建物に、映像作品「遠近を抱えてPartII」が旧支所に、それぞれ展示されている。
とくに「遠近を抱えて」は14点すべてが揃っており、特筆に値する。これはめったにない機会だからである。あの「不自由展」でも、一部しか展示されていなかった。
しかも、離島ゆえ、あまり人混みに巻き込まれず、落ち着いて鑑賞することができる。
このような環境でゆっくり鑑賞すると、その全体の意味に思いを馳せざるをえない。これにくらべると、ネット上の情報は「燃えやすい」「攻撃しやすい」部分を恣意的に切り出しているように思われた。
もとより、展示作は大浦のそれだけではない。日章館と改称された旧映画館に展示されている、柳幸典の「ヒノマル・イルミネーション」を一例にあげてみよう。
これは、白と赤のネオンが明滅して、日の丸や旭日旗の形を映し出す作品だ。とくに批判的なメッセージは直接記されていない。ピカピカと光る作品を見ながら、いわゆる保守派の人々は、これをどう解釈するのだろうと興味を抱いた。
それはともかく、この日のトークイベント「芸術とプロパガンダ」は、旧支所で14時30分より開かれた。名前こそ公共施設の名残を残すものの、この戦前に作られた建物は、ART BASEが買い取り、現在では民間の施設となっている。
スピーカーは、社会学者で東京藝大教授の毛利嘉孝、美術史学者で日本女子大教授の河本真理、そして筆者。会場は予約の約80人で満席だった。それぞれのプレゼンと相互の意見交換が行われたのち、16時すぎより約1時間、会場より質問を受け付けた。
一体どんな質問がくるのやら。たしかに緊張感はあった。会場には、保守系雑誌の『WiLL』や『Hanada』の常連執筆者の姿も見られた。ただ、批判的な意見こそあったものの、目立った混乱は起きなかった。
むしろ、あいちトリエンナーレ芸術監督の津田大介が質問に立ったことが最大の目玉だったのではないかと思われる。津田は観客のひとりとして、百島に足を運び、トークイベントにも出席していたのである(翌日は出席せず)。炎上騒ぎの当事者でもあるので、その質問にはほかにない迫真性があった。