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愛知、ウィーンに続いて「またプロパガンダ」の声 離島アートイベント炎上で街宣車、警察官が上陸

尾道市百島の「ひろしまトリエンナーレ」プレイベントで一体何が起こったのか?

2019/11/24
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質疑応答で「ネットの情報によると」

 やがて16時30分になり、質疑応答の時間に入った。ここでは予想どおり、批判的な質問が飛んだ。徐々にボルテージが上がり、やや声を荒げるものも現れた。

 ただ、論点は相変わらず「天皇ヘイト」「プロパガンダ」などで、とくに目新しいものはなかった。むしろ筆者は、件の政治団体メンバーらしきひとりが「ネットの情報によると」と口走ったことが気にかかった。

 16、17日のスピーカーは少なからず、作品を直接見て、全体や文脈を考えることが重要だと述べていた。にもかかわらず、抗議する人々は、目と鼻の先にある作品を見ずして、ネットの断片的な情報を信じ、激しい批判を展開してしまったのである。この分断はきわめて深刻だと感じられた。

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トークイベントの会場となった旧支所外観。入り口には警備員などの姿も。

 では、光明がなかったかといえば、そうではない。

 トークの終了後、スピーカーの小泉と、批判的な質問者のひとりが握手する場面があったのである。十数分の立ち話で、「同意はしないが、あなたの意見はわかった」と納得した末での行動だった。その人は「さっきは言いすぎた」と詫びさえもした。

 会場で声を荒げる人というと、強面なイメージがある。しかし、かれらはときおり過剰なほど礼儀正しかった。会場の外でも、テレビ局の取材に丁寧に答えていた。このことも念のため記しておきたい。

 この手のイベントにやってくる批判者は、大別してふたつにわけられる。ひとつは、会場では冷静なのに、あとからメディア上で激しく声を上げるタイプ。もうひとつは、会場では大声を上げるのに、直に話してみると案外会話が通じるタイプ。

 どちらがいいというわけではないが、16日は前者が多く、17日は後者が多かった印象である。

トークイベントの会場。手前がスピーカーの席。

 いずれにせよ、百島のトークイベントは、大きなトラブルもなく無事に終わった。

 もちろん、今後メディア上に攻撃を煽る記事などが出て、再び炎上するかもしれない。しかしだからこそ、わずかながらでも、作家と批判者との間でコミュニケーションが成立していたことを明記しておきたい。というのも、これは表現の自由を考える上で、明るい兆しのようにも思われたからである。

百島の福田港を出る高速船。

写真=辻田真佐憲

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