あいちトリエンナーレで話題になった、あの「昭和天皇の写真を燃やす作品」が広島県尾道市の百島(ももしま)で展示されているらしい――。10月上旬、そんな情報がネットを駆け巡った。

 ある者は、これに「天皇ヘイト」「プロパガンダ」といきり立ち、さっそく広島県庁や尾道市役所などに電凸を敢行。別の者は、この動きに「愛知、伊勢、川崎、ウィーンに並ぶ危機」と警鐘を乱打。瀬戸内海の離島は、にわかに「表現の自由」をめぐる“主戦場”のひとつとなった。

 そんなさなかの11月17日、同作の作家である大浦信行が参加するトークイベントが百島で開かれた。右翼が大挙上陸して抗議するとの情報も飛び交ったその日、いったい何が起こったのか。

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 前日に同島で行われた関連トークイベントのスピーカーのひとりでもある筆者が、緊迫した当日の様子をレポートする。

百島の町並み。夜は明かりが少なく、真っ暗になる。

過疎化した離島がアートの拠点に

 そもそも百島は、尾道市街から程近い、広さ約3平方キロメートルの小さな島である。尾道港より高速船に乗っておよそ30分。周囲の島々が橋で結ばれるなか、交通手段はいまだ海路しかない。

 穏やかな島ではあるけれども、離島の例に漏れず、百島も過疎化と高齢化に悩まされている。いまや人口は500を下回り、野生のイノシシ、ネコ、タヌキのほうが多いほどだという。

 近年、このような地域を現代アートで活性化させるプロジェクトが各地で盛り上がっている。展覧会を開けば観光客がやってくるし、若手アーティストが移住すれば地域が若返るからだ。

 百島は、現代美術作家の柳幸典が旧百島中学校の校舎を改修し、2012年に「ART BASE百島」を設立してから、本格的にアートの拠点となった。それ以来、展覧会、レクチャー、ワークショップなど多種多様な文化イベントが同島で毎年開かれている。

ART BASE百島の入り口。元は中学校の校舎だった。