貴生川駅から長い山越えで紫香楽宮跡駅にたどり着いたら、あとは立て続けに停まってあっという間に終点の信楽駅。ホームにはたくさんのたぬきの置物が出迎えてくれるし、売店も入っている駅舎から出てもこれまた巨大なタヌキさん。町のあちこちにもタヌキがいるし、誰が見ても“信楽”という空気感。列車に乗っていた観光客たちは、三々五々散らばって信楽の町の中心を目指していった。きっと、信楽焼の窯元めぐりなどを楽しむのだろう。
「普段は学生さんが乗ってくれるくらい」
と、こうして朝ドラブームに沸く信楽高原鐵道に乗ってみると、「ずいぶん元気そうだなあ」という印象を抱く。ところが、実際には全国各地のローカル線の例にもれず、経営状態は決して芳しくはないようだ。神山さんは、「普段は学生さんが乗ってくれるくらい」と打ち明ける。
「このあたりはみんなクルマを使いますからね。朝と夕方、学生さんのご利用がほとんど。だから、お客さまを増やそうと思ったら、もう外から呼ぶしかない。観光で来ていただくしかない。そこでいろいろ頑張っているところなんです」
1本の列車しか走らせることができない理由
そうしたところにちょうど折よく朝ドラがやってきた、ということか。ただ、いくら観光客が来たとしても、すべてを受け入れることは難しいという事情もある。信楽高原鐵道には途中に信号がなく、起点から終点までの全区間で1本の列車しか走らせることができない。片道が24分で折り返しの時間を含めれば往復で1時間。つまり、1時間に1本が運転本数の“限界”なのだ。さらに車両も増結しても2両編成まで。この限られた条件のもとで、観光客を呼び込まなければならない。
「観光のための臨時列車でも走らせることができればいいのですが、すでに毎時1本走っていますから今より増やすことはできません。ですから現状を維持しつつやりくりしていくしかない。地域とどれだけ協力していけるか、ですね」