タヌキとカエルがお出迎え
筆者が乗ったのはちょうどお昼ごろの列車。貴生川駅からしばらくはくねくねとカーブを曲がりながら山間の急勾配を昇っていく。最初の停車駅・紫香楽宮跡(しがらきのみやあと)駅までは14分もかかる。終点まで乗って24分だから、最初のひと駅間に全体の半分以上の時間を要するというわけだ。紅葉真っ盛りの山の中を走る車窓からところどころに見えるのはタヌキの置物。信楽焼といえばタヌキなわけで、車窓のタヌキの置物はいわば信楽流のお出迎え。後になって神山さんに聞いたが、実はカエルの置物(もちろん信楽焼だ)も6体あるという。“6カエル”=“迎える”なのだとか。
「以前は国鉄信楽線でした」
というわけで長々と列車に揺られて最初の駅・紫香楽宮跡駅。奈良時代、聖武天皇が4カ月間だけこの地に都を開いたことがあって(奈良の大仏、最初は紫香楽宮に造られる予定だったとか)、その跡地近くの駅である。続いて隣の雲井駅までは時間にしてわずか2分、歩いても10分程度という近さだが、信楽高原鐵道の各駅の中でも唯一国鉄時代からの駅舎が残る。他のホームだけのシンプルな駅とは違い、雲井駅はそこはかとなく昭和の雰囲気が漂うローカル線らしい駅である。
「近くには小さいですけれど集落もあって、比較的利用者の多い駅ですね。信楽高原鐵道は1987年に発足しましたが、以前は国鉄信楽線でした。その当時は起点と終点以外ですと雲井駅と勅旨(ちょくし)駅の2つだけ。他の駅は信楽高原鐵道発足時に新たに開業したものです」
雲井駅に続いて勅旨駅、玉桂寺前(ぎょくけいじまえ)駅。玉桂寺前駅は川を挟んで駅名にもなっている玉桂寺があるほか、陶芸の森まで通じている山道は『スカーレット』のロケ地になったとか。おかげで最近はロケ地めぐりに訪れる人もいるようだ。