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ベストセラー『反日種族主義』への反発……韓国は「言論の自由」を受け入れられるのか?

2019/11/28
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過去に同様のバッシングがあった

 韓国メディアは「恥ずべき」、「荒唐無稽」「悪辣」といった言葉を使い、反日種族主義を批判したのだ。こうしたバッシングは当初から予想されていたものだった。かつて、韓国社会は世宗大学・朴裕河教授が書いた書籍『帝国の慰安婦』に対して、激しいバッシングを繰り返した前例があったからだ。

「帝国の慰安婦」は韓国で刊行後、日本版も出版される話題の書となった。その主題は戦争を引き起こした帝国主義を批判する書であったのだが、日本軍と慰安婦を同志のように描いたことで市民団体が強く反発した。

 朴教授は慰安婦から名誉毀損で訴えられ、大学をクビにしろとデモまで行われた。当時、私の取材に応じてくれた朴教授は、激しいバッシングや裁判の対応に追われ憔悴しきた表情を見せていた。

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世宗大学・朴裕河教授 ©文藝春秋

『反日種族主義』についても再び同じことが起きた。仮に同意できない意見であっても、そこから進歩的に意見を見いだそうとするならば、同書を契機として議論を深めていくべきだろう。しかし韓国メディアの報道はそうはならず、激しいバッシングを繰り広げるだけ。その言動は韓国メディアが「言論の自由」に対して極めて不寛容であることを改めて浮き彫りにした。

法律で規制を求める民主研究院

 さらに激烈な意見もある。政権与党である「共に民主党」のシンクタンクである「民主研究院」からは、「政策ブリーフィング」というタイトルで次のような意見が出されたのだ。

〈民主研究院は10月25日、日本の植民統治擁護行為を処罰する特別法を制定しなければならないと主張した。特別法の目的は「大韓民国の正統性と民族精気の守護」。民主研究院は、日帝の擁護行為の一例として、李栄薫元ソウル大学教授(現イスンマン学堂校長)が書いた本“反日種族主義”を取り上げた。(中略)民主研究院はこの日まとめた報告書で、「極限に達した日帝植民統治擁護行為を防ぐ特別法が急がれる」とし、「学術活動ではなく政治的意図が明らかな大衆扇動が蔓延している」と指摘した〉

 つまりはそのような言論を法律で規制しろというのだ。

『反日種族主義』の共著者・李宇衍(イ・ウヨン)氏

『反日種族主義』の著者の一人である李宇衍(イ・ウヨン)氏は、発刊前後から様々な圧力を受けてきた人物だ。李氏はこう語る。

「今でも様々な脅しがあります。『韓国を離れて日本へ行け』『黙れ(口をつぐめ)』『夜道に気を付けろ』などのショートメッセージやメールなどが来ます」