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シアヌークビル用にアレンジした現地限定のアプリ

 ある貼り紙は、食事の配送サービスに関する内容だった。WeChatからスキャンすると、シアヌークビルの中国系食堂から食事をデリバリーしてくれるサービスが立ち上がった。LINEの「公式アカウント」のようなWeChatの「公衆号」機能とか、PayPayやLINEにもある、「ミニアプリ」とか「ミニプログラム」という名前のようなものだが、とにかくめちゃめちゃわかりやすい食事のデリバリー画面が出てきたと思ってほしい。

 これは中国で有名なデリバリーアプリではなく、中国で人気のアプリのひな形からシアヌークビル用にアレンジした現地限定のアプリだ。なにせカンボジアドリームを目指して、中国各地から多数の料理人がシアヌークビルや首都プノンペンにやってきて店を開いている。そして、東西南北各地のバラエティに富んだ中国料理屋の中から、好きなメニューを選んで注文できるのだ。

ネット先進国中国と比べても違和感のないアプリ

 そこで私は、試しに距離的にそう遠くない広東料理屋から「腸粉」という伝統料理を宿で注文してみた。しばらくすると店員と思しき人から電話があり、「地図と同じ場所のXX酒店(ホテル)で間違いはないか」と中国語で聞いてきた。大丈夫だと伝えると、10分しないうちに中国人のおっさんがバイクに乗って食事を運んでやってきた。私は代金と配送料を米ドルで払うと(メニューは米ドルなのだ)、「またよろしくー」と言っておっさんはバイクで走り去った。

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フードデリバリーを利用してみた

2年で作り上げられた中国ネット環境

 シアヌークビルにはチャーハン一皿を5ドルで提供するようなぼったくり食堂もあり(本来の相場ならば2~3ドル程度)、食べて後悔したことがあるが、これなら欲しいものを安く食べることができる。なにより公共交通機関がなく、唯一の移動手段は言葉が通じない三輪タクシー「トゥクトゥク」だけ。食事にいくだけでもストレスが溜まるならば、気になる食事を運んできてくれたほうがいい。注文数を見ると広く使われているようだが、それも頷ける。しかも、シアヌークビル限定の食事のデリバリーアプリがいくつもあることから、サービス間でも競合して磨きがかかっているのだ。

 池袋や西川口よりもずっとリアルな中国ネット宅配環境が、たかだか2年で作り上げられている。シアヌークビルを「悪くてダメな中国人が集まる犯罪多発都市」と紹介するのは正しいが、その一面以外の紹介も、とてつもなく重要に思えてきた。