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2019/12/07

source : 週刊文春デジタル

genre : ニュース, 社会, 歴史

Y染色体にこだわる根拠とは?

 脳科学の観点から、男性と女性の違いについて訊かれることもあります。男と女で身体が違う程度の差は、脳においても違うといえます。しかし、性差よりも個体差のほうがより大きいという考えのほうが研究者の間ではより一般的です。「男性と女性のどちらが天皇になるか」より、「どんな方が天皇になられるか」のほうが、脳科学的に見ればより重大な問題ではないかと捉えられます。

秋篠宮さまと悠仁さま 宮内庁提供

 また、しばしば男系を守るべき根拠としてY染色体のお話を持ち出されることがあるのですが、やや奇妙に聞こえます。天皇家の長い歴史に比べれば、それが発見されてからの歴史はおよそ100年程度です。

 Y染色体以外にも人間には形質を伝えるための遺伝的なキャリアは存在するのですが、Y染色体に限らなければならない根拠が不明瞭です。これならまだ、伝統的に男系男子に限るので現在はそれを変えるべきときではない、としたほうがまだ説得力があるでしょう。また、わざわざバイオサイエンスの話を持ち出す人なら積極的な生殖医療の利用についても言及しそうなものですが、そうでもないというのも理解に苦しみます。

 私は、男系のままがいいか、女系を認めるべきか、ジャッジする立場にはありませんので、議論に敢えて加わろうとは思わないのですが、しかし現在の状況を分析すれば、「女系はありか、なしか」という論争にはあまり意味がないのではないでしょうか。現行の仕組みでは「男系男子」の維持はいずれ構造的問題として不可能になるであろう懸念を取り除くことができないからです。それでも「女系は受け入れるべきでない」ということなら、代わりのシステムを何か考える必要に迫られるでしょう。

天皇陛下 宮内庁提供

 ただ、そもそもジェンダーを男と女の2種類とする分け方が、世界的には古くなりつつある時代でもあります。女系天皇というワーディング(言葉遣い)自体が、世界に向けて「日本は女性の権利が制限された国です」というアピールになりかねないことに、もう少し自覚的にならなくてはいけないかもしれません。

 男女の格差を示すジェンダー・ギャップ指数という尺度があります。日本は2018年、世界149か国中の110位でした。つまり、ただでさえ「日本で暮らす女性はかわいそうだ」と国際社会から見なされている現状があり、その上で「天皇になれるのは男系男子のみ」という原則があるのを、どう説明していくのか。なかなか困難なことではないのかなというのが率直な感想です。