『歌舞伎に行こう! 手とり足とり、初めから』(船曳建夫 著)

 歌舞伎って…近寄りがたくて敷居が高そう。そんなイメージを軽く吹き飛ばすのが『歌舞伎に行こう! 手とり足とり、初めから』。著者は『知の技法』で東大の知性を普通の人々に開放したアイデアマン。多趣味の名誉教授の道案内で歌舞伎が身近になるかもしれない。

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 歌舞伎は今、戦後何度目かのブームらしい。四年前に歌舞伎座が改築して以来、劇場の中も外も人がいっぱいだ。地下鉄東銀座駅につながるお土産売り場なんて、デパ地下のような賑わい。ソフトクリームも食べられるので、観劇をしなくてもたまに寄ってしまう(銀座のデパ地下にはジェラートはあっても、ソフトクリームがないのだ)。

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 それでも、古典芸能という看板のせいか、歌舞伎に苦手意識をもつ人は多い。本書はそんな、一度は行ってみたいが、腰がひけている人のための歌舞伎見物の指南書だ。著者の船曳氏は文化人類学者で歌舞伎ファン歴五十年ながら、上から目線の鑑賞の手引きではなく、チケットの取り方に始まり、演目や座席の選び方から服装、さらには弁当の心配までしてくれて、まるで遠足に生徒を引率する先生のようだ。そう、歌舞伎見物は大人の遠足なのだ。

 余談だが、私が初めて歌舞伎に行ったのは高校時代。テレビで観た片岡孝夫(現・仁左衛門)の美男子ぶりに魅せられ、バイト代で観に行った。逆にこうした出会いがないと、行く機会がないままなのもわかる。

 そんな役者目当ての私のようなミーハーファンにとっても、伝統とは何か、インテリ漱石が歌舞伎を苦手とした理由や、なぜ歌舞伎役者にスキャンダルが多いのか、などを具体的に解説してくれていて面白い。昨年の芝翫襲名直前の浮気騒動も、歌舞伎ならではの伝統に裏打ちされた広報活動であり、芝翫夫人の三田寛子は凄腕のプレス担当だったのだ。歌舞伎は今もジャニーズや他のエンタテインメントと同じ土俵で興行を打っているのだから、当然ではある。私もお金をやりくりして、SMAPのライブと歌舞伎を両立させてきた。

 一つだけ残念なのは、船曳氏の贔屓役者が明かされていないこと。好みを押し付けては野暮、と遠慮したのかもしれないが、ミーハーなファンとしては、そこをメンコのようにぶつけあって楽しみたいのだ。

ふなびきたけお/1948年東京都生まれ。東京大学名誉教授。専門は文化人類学。「知の技法」シリーズ編者の1人。『「日本人論」再考』『旅する知―世紀をまたいで、世界を訪ねる』など著書多数。

いしづあやこ/1965年東京都生まれ。映画評論家。「CREA」「ELLE」などで映画評やコラム、映画祭レポートなどを執筆。

歌舞伎に行こう! 手とり足とり、初めから

船曳 建夫(著)

海竜社
2017年1月13日 発売

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