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連載春日太一の木曜邦画劇場

加藤泰監督の鮮烈な演出 和楽一座の青春を刻印!

『ざ・鬼太鼓座(おんでこざ)』

2017/03/14
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1981年作品(105分)/松竹/2800円(税抜)*ブルーレイは3300円(税抜)/レンタルあり

 昨年は、抒情的な演出で時代劇やヤクザ映画、ミステリーなど多岐にわたり活躍した加藤泰監督の生誕百年だった。

 それに合わせて松竹は、彼の監督作を五本まとめてブルーレイ化、馴染みのあるタイトルがラインナップされている中に、一本だけ聞き覚えのない作品が混ざり込んでいた。

 それが、今回取り上げる『ざ・鬼太鼓座』である。

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 これは長年「幻の作品」とされてきた加藤泰の遺作。今回の生誕百年に合わせて松竹はデジタルリマスターしてソフト化、記念上映も行われた。

 そのため、筆者としてもこれが初見に当たる。この連載は「かつて観て印象的だった作品を、折を見て取り上げる」というのが基本線だったので、今回が初めての試みになる。

 本作は劇映画ではなくドキュメント作品だ。佐渡を拠点に活動する和楽器グループ「鬼太鼓座」の稽古、そして演奏をしていく様が画面に次々と映し出されていく。

 驚くのは、加藤泰がドキュメントとは思えないような様々な劇的な仕掛けを、「演出」として施していることだ。彼らの演奏自体にフォーカスを当てるように映し出していない場面が多々あるのである。

 神社での剣舞では、境内で舞う姿よりも外にある銀杏の木が画面で大きく映し出され、剣を抜いてからの舞の際は葉々の裏側に隠れるような構図で撮っている。「津軽じょんがら節」は荒波が打ち寄せる浜辺で同時録音で津軽三味線を奏でさせたため、轟々たる波音が音色に重なることがあった。「桜変奏曲」は水の上に浮かんでいるような合成映像の中で琴が演奏され、最大の見せ場といえる「大太鼓」になると今度は活火山のシュールなセットで演奏され、しかもこの火山が演奏終盤に噴煙も上げたりする。

 さらに驚くことには、時おり彼らの演奏に被さるように、未来的な電子音楽がBGMとして入ってくるのである。

 演奏する姿を活写したいのであれば、こうした仕掛けは「邪魔」なものになりかねず、悪手ともいえる演出手法といえる。だが意外にも、いずれのシチュエーションにおいても、最後に印象に残るのは面々の躍動する姿だった。

 彼らをあえて目立たせようとはせずに、他の強烈な存在の中に紛れ込ませる。その演出により、何とぶつかっても当たり負けしない力強さがかえって証明され、彼らのパフォーマンスがよりエネルギッシュに際立つことになった。

 ドキュメントにもかかわらず細部まで徹底して作り込まれた映像と、その向こうに見えてくる人間たちの生の躍動感――加藤泰の晩年まで衰えることのなかった才気を改めて感じられる作品といえる。

加藤泰監督の鮮烈な演出 和楽一座の青春を刻印!<br />

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