それだけに、デモ隊の子たちが青春や平穏を犠牲にして、デモ活動に身を投じている姿をみると、いたたまれなくなります。デモ活動が激化していた今夏、30代の香港人女性に「彼らを見てどう思う?」とインタビューしたんです。彼女は「本来なら彼らはバーベキューやカラオケをして、海へ行って、この夏を楽しまなければいけなかった。でもみんな道に出てきて、未来のために逮捕のリスクを背負いながらデモ活動をしています。本当に悲しいですよね」と語っていました。
私も「彼らはなぜここまでするんだろう」と何度も疑問が浮かびました。しかし話を聞いているうちに、彼らはこれまで幼い目であらゆる不条理を見てきたんだとわかってきたのです。1997年7月1日に香港が中国に返還された後、本土から中国人が押し寄せ香港中の不動産を次々に買っていきました。それで地価や物価が高騰し、外貨を稼ぐ術のない一般の香港人はどんどん貧しくなっていきました。
幼い目が見てきた“煌びやかな香港”の裏側
一般の香港人が住む環境は、私たち日本人からすると想像を絶する酷さですよ。「ここではできない……」と二の足を踏むような不衛生なトイレのすぐ横にキッチンがあり、お風呂もある。下水もひどいし、ゴキブリも至る所にいます。旅行雑誌に載っているような“煌びやかな香港”を享受しているのは欧米人や中国人で、それを下で支えるのが香港人という構図になっているんです。
今までにも香港ではこの苦境に声を上げた人々がいました。2014年の香港反政府デモ「雨傘運動」もそうです。しかし結局は何一つ改善されなかった。
デモ隊の1人は「政府はいままで僕らの声に一切耳を傾けなかった。雨傘のときも失敗したし、逃亡犯条例改正案への反対も無視された。だから今回は絶対にあきらめない」と語っていました。暴力に訴えることは間違っています。しかし彼らをただ責めることは私にはできません。警察の非人道的な行動を肯定するわけにもいきません。できるだけ多くの人に彼らの姿を伝えるために、私はこの活動を最後まで見守ろうと思っています。
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