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政党政治と軍部

 総動員法を繞って私の起した事件の経緯は上述の通りで、全く私の若気の未熟が致した過失であり、弁解の辞は無い。

 ただ之が私個人の過失としてでなく、之を以て、軍部が議場で議員を脅かし、黙らして、総動員法の如き強権法を押し通して、軍部の政治支配権確立に役立たしたように曲解された事は遺憾である。

 東京裁判でも右のように印象づけられたのかも知れぬ。が、実際は正反対で、私の説明を妨害する野次を封じたに過ぎないのである。寧ろ議員の質問に真面目に答えようとして却って犯した過失であった。

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 議会において議員側が、政府側の答弁、説明に耳を傾け、然る上で正々堂々の論陣を張ってこそ、議会政治の面目に立つ。

 徒に野次妨害を事としたり、政権争奪の場と化したりして、議会側が真面目に政策、法案等の審議に努力しないから、政府側も、議会ズレした老巧さを発揮し、顧みて他を言い、ゴマ化しや瓢簞鯰的な答弁でお茶を濁し、さてはとんでもない謀略を以て威嚇したりしたのが当時の議会の姿であり、斯くして議会政治の威信は失墜した。

 議会政治の威信失墜の根原は此の辺に在り、軍部の圧迫などと云うのは見当違いであろう。

 あれから十数年、戦後の議会は国政上に決定的に比重を増大したが、議会政治の真面目は進化したか、退歩したか、私は之を詳らかにしないけれども、議会に起った最近の諸事件を獄窓から眺めて、当時を回顧し、議会政治は何処へ行くか? 感慨ひとしお深いものがある。

 餅は餅屋でなければならぬ。議会政治は何と云っても健全な政党に担当して貰わねばならぬ。

 軍部が政治の舞台に登場するに至った如きは、不幸であった事は申すまでもないのみならず、軍部自身のためにも決して好ましい事ではなかった。

宮脇氏の妨害にも理由があった

 私が事件を起したのは板野議員の質問に拠るものであったが、あの直後板野氏と直ちに握手して、よく語り合った。

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 衝突の相手の宮脇議員とは其の機会が無かった。宮脇氏は私が士官学校の生徒の時工兵の区隊長であった。

 あの時宮脇氏が私の発言を妨害したのには理由がある。私が初からウッセキして居った不平不満をブチマケたから、説明と云うよりも寧ろ大声叱咜するが如くであったそうだから、宮脇氏が「小僧生意気だッ」と思ったのも無理は無かった。

 過般宮脇氏の訃報を聞いたので、直ちに弔辞を贈り心から哀悼の意を表した。

        (戦犯として巣鴨服役中に執筆)

※記事の内容がわかりやすいように、一部のものについては改題しています。

※表記については原則として原文のままとしましたが、読みやすさを考え、旧字・旧かなは改めました。
※掲載された著作について再掲載許諾の確認をすべく精力を傾けましたが、どうしても著作権継承者やその転居先がわからないものがありました。お気づきの方は、編集部までお申し出ください。