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2階、3階のディープな世界

 神保町に用があって行くと、時間のないときでも、1階の「軍艦」を一周するようにしている。だいたい何かしら発見があって、ついつい1冊買ってしまう。だが、ここだけで満足していたらもったいない。時間のあるときは、2階、3階ものぞきたい。

 3階の文芸書の棚は、全体にディープなフロアにあって、比較的おとなしいが(「自分でもなんとなくわかる」というくらいの意味で)、著者別の棚には白洲正子や司馬遼太郎の名前も、新刊のラインアップ。壁面の棚にずらっと並ぶ函入りの全集は、圧巻。鴎外、漱石、鏡花、寺田寅彦や志賀直哉、山田美妙まである。小山さんによると出版社での品切れもあって、必ずしも揃っていないというが、こういう本を現物を見ながら選べる場所はなかなかない。

文芸書の棚、新刊話題書も入るが、白洲正子や司馬遼太郎も。

 地方小出版の売り場も貴重だ。社数でも規模でも東京集中の出版業界だが、福岡の書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)、北海道の寿郎社(じゅろうしゃ)などなど、魅力的な本を出す出版社があっても、その本を手に取る機会がない。それぞれの地方の中核的な老舗書店では、その地方の地元出版社の本を揃えていたりするが、九州の出版社、北海道の出版社の本がどちらも見られる売り場は、東京でも数えるほどしかない。

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 取材時には、九州の出版社さん、海鳥社の創業30周年フェアを展開していた。九州ローカルな出版物も多いのだが、筑豊炭坑や長崎の教会群といった産業・文化遺産など、興味深いテーマも多い。

都内有数の地方小出版の棚。
九州の出版社、海鳥社のフェア。

 3階の哲学、宗教、歴史、2階の芸術、社会、理工などの棚も、ちょっと回遊したくらいでは見切れないくらいのボリュームがある。それぞれに担当のスタッフがいて、イベントやフェアを通じて出版社や著者との結びつきもあって品揃えが充実している。大学の郊外移転も進み、以前に比べて、研究室の御用達的な購入はなくなっているとのことだが、その分、純粋にそれぞれのジャンルの棚にお客様がついていて、いわば「鍛えられている」感じだ。

 一方、コミックスは1階の隅にちょっとあるだけだし、欠けているジャンルもある。品揃えはある意味偏っているかもしれないが、神保町全体をひとつの売り場と考えると、三省堂や書泉、それぞれの専門書店で補完しあっていて、問題ない。本の街神保町にあるからこその、先鋭的な品揃えなのかもしれない。

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