昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2019/12/08

30代に突入し、心身ともに疲れ切って不眠症に…

 やりたい放題に見えるインフルエンサーたちだが、『アメリカン・ミーム』では彼らが30代に突入し、もがき苦しむ姿が映される。「Instagramでもっとも性差別的」と呼ばれたパーティー盛り上げ役・キリルのエピソードは出色だ。

 差別的ジョークと下ネタで人気を博す彼は、SNS上のブランドを活かすことで、全米各地のナイトクラブをわかす「パーティー盛り上げ役」として大金を稼ぐ生活を送っている。差別的言動を咎められようと「弱肉強食」理論で切り返し、クラブの女性客を顔から便器に突っ込んでみせる傍若無人なキャラクターには熱心なファンもついている。

©iStock.com

 しかし、ドキュメンタリーが映すキリルのプライベートは悲惨なのである。夜通しパーティーを繰り返して全国を巡回する彼は、心身ともに疲れ切り、不眠症に陥っている。異性との真面目な交際や結婚を望むものの、生活スタイルのため難しく、仕事への自信もない。

 ドキュメンタリー後半、彼はポツポツと悲痛な告白をつづけるようになる。「33歳の大人なのにこんなことをやってる」「みんなイカれた人生を羨ましがるけど、気づいてない 僕も何かを作っているみんなが羨ましい」。

 インフルエンサーとしてのキャリアはあと1年ももたないと嘆いており、お得意の性差別パフォーマンスにしても重い罪悪感が伴っているようだ。「女性蔑視するゴミだと思われたくないって何度も思ってきた でも、これしかできない 家賃を払わなきゃいけないから……」。

みずからの消費期限を自覚できるか否か

 ミリオネアも夢じゃないインフルエンサーだが、築いた地位を一瞬で失いかねない立場でもある。2015年にオバマ元大統領やジャスティン・ビーバーと並んでTIME誌『インターネットで最も影響力を持つ30人』に選ばれたブリタニーというインフルエンサーは、その2年後、活躍していたSNSがサービスを終了したことで一気に名声を失ってしまう。

 夢だった女優のオーディションに挑戦するが、犬の糞までも利用するお笑いキャラで有名になってしまったため、真剣に取り合ってもらえない。そうしてインフルエンサー業を続けていく彼女もまた、キリルと同じく「30代なのにこんなことをやってる」と暗い顔でつぶやくのである。

 みずからの消費期限を自覚してサイド・ビジネスを成功させるインフルエンサーもいる。出演者の1人である通称ファット・ジューは、インフルエンサーとしての価値があるうちに「インスタ映えアルコール」販売を成功させ、製品CMにマドンナを起用するまでの事業家となった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

BABE(@drinkbabe)がシェアした投稿 -

「ファット・ジュー」ことジョシュ・オストロフスキーによるインスタ映えアルコール


 彼の場合、フェイクニュース連発や盗作スキャンダルの過去ですら芸の肥やしにする度胸の持ち主なので、前出した鬱ぎみインフルエンサーたちとは「器」が違っているかもしれない。

 批評家たちには、出演者たちのSNS投稿に倣うかのように「一部分を誇張する軽薄さ」を批判されていたりもする『アメリカン・ミーム』だが、庶民が楽に稼げる仕事など無いと身に染みる作品ではあるだろう。