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『空中庭園』のテーマは急場しのぎで生まれた?

――一文をじっくり読ませる書き方からページターナーへの切り替えって、ぱっとできたんですか。

角田 苦労がありましたね。やはり文芸誌だと芥川賞照準で70~80枚の短篇か30枚の短篇しか書いたことがなくて、長篇が作れない。なので『空中庭園』が6話形式になっているのはそういう理由で、長篇が書けないから、登場人物1人1話ずつという書き方にしたんですよね。

――家族というテーマはどのように出てきたんですか。

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角田 あの時は締切を間違えていて。はじめての雑誌での連載なのに、あと1か月もないくらいの時に締切を間違えていることに気づいて、それで1話だけ、前にほかの雑誌に、自分はラブホで仕込まれた子供だっていう短篇を書いたことがあったので、それを膨らませたんですね。それで1回目の締切をしのいだんですが、書きながら「この登場人物を全部まわしていけば連載ができる、1冊になる」って思いました(笑)。「家族をテーマにしよう」といったことではなく、急場しのぎでできたんです。

 ただ、それまでもデビューしてから10何年間、いわゆる疑似家族というか、血のつながらない人たちの共同生活みたいなものを書いてきて、それで行き詰ったんだから、今度はじめて血のつながった家族を書いてみるのは自分のなかでは意味があるかもしれない、とは思っていました。

 

――それまで疑似家族的なものを書いてきたのは、どうしてだったのでしょう。

角田 長く結婚という制度と家族という共同体のことが分からなかったんですよね。なぜそれが必要で、利用され続けているのかが分からなくて、それについて考えたかったんです。結局、分からないままですけれど(笑)。

『空中庭園』でははじめて、文体を意識せず、内面を掘り下げず、ストーリー重視で書いてみたんです。それがひとつ目だったので、まだやる気がみなぎっているというか、「できるじゃん!」みたいな気持ちがあって、そこからはすごく、楽しく頑張った感じです。

――ご自身ではジャンルを替えたという意識はなかったんでしょうか。

角田 全然ないです。ただ、雑誌がふたつある時にどっちに書くかということが、こんなに意味があるものなんだなというのは思いました。たぶん、純文の雑誌に書いていた時も、あんまり温かく迎え入れてもらえている気がしなかったんですよね。自分の実感として。おさまりが悪い気持ちでいて、のちに小説誌と呼ばれるものに書くようになっても、なんか入れてもらえていないような感覚がありました。でもだんだん、最初からそうだったんだと思うようになって。自分はどっちにも分類できないところで書いてきたし、書きたいのもそういうものなんじゃないかなという気持ちがちょっとあります。