昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載春日太一の木曜邦画劇場

コミカル芝居の天知茂が田宮二郎を引き締める!――春日太一の木曜邦画劇場

『鉄砲犬』

2019/12/17
1965年作品(83分)/KADOKAWA/2500円(税抜)/レンタルあり

 二週にわたり天知茂の主演作品について取り上げており、基本的には暗黒を背負ったようなダークさが魅力という切り口で語っている。が、彼の魅力はそれだけではない。

 かつて、「犬」シリーズという風変わりな一連の現代劇映画があった。『宿無し犬』『早射ち犬』――と、タイトルに「犬」とつくためにそう呼ばれている。

 このシリーズ、いずれも田宮二郎が主演、キザで拳銃の名手の風来坊・鴨井大介を演じてきた。そして、もう一人レギュラーとしてシリーズの大半に登場しているのが、鴨井と腐れ縁の刑事・木村だ。

 木村は見るからにパッとしない風体とオンボロな身なりのため、鴨井からは「しょぼくれ」と呼ばれている。そして、この「しょぼくれ」を演じたのが、天知茂であった。

 あのダークな天知が貧しい感じの役を演じるとなると、陰気すぎて「しょぼくれ」というよりは「死神」ではないかと思われる方もいるかもしれない。が、そこは名優。その陰気さを見事に軽妙なコミカルさで演じ切り、ダークなだけではない魅力を発揮、「しょぼくれ」と呼ばれるのにピッタリな、陰気なだけでなく可愛げのあるキャラクターに仕上げていた。ひたすら陽性の田宮とのギャップが抜群で、二人のやりとりがシリーズの大きな楽しみになっている。

 中でも、今回取り上げる『鉄砲犬』での二人は最高に楽しく、まるで極上の漫才。

 序盤から、食堂でポンポンとテンポの良い関西弁のかけ合いを見せつけている。話をしている間に鴨井は拳銃の入ったボストンバッグを盗まれるのだが、「そりゃあ周りが気にならないくらい夢中になるよな」と思わされるほどの、楽しげな雰囲気だった。

 その後の鴨井に身体検査するシーンもいい。「やってほしいな。なんぞ出てきたらな、うどんの百杯もおごったるわ」と開き直る鴨井に対し、木村は勢いで股間も握る。ここで「こら違うわな」とシラッと言う天知の表情。見事なすっとぼけぶりだ。過去二週の「暗黒天知」を観てきた方は「こんな軽い喜劇芝居もできるのか」と驚かれるのでは。

 といって、ただ軽いだけではない。鴨井と組織犯罪の裏側を語り合ったり、捜査に乗り出したりする場面ではスッと鋭い目つきになり、この男が「しょぼくれ」なだけではないということを伝えてくる。

 物語自体は、暴力組織を相手にした軽快なハードボイルド・アクションになっていて、田宮の二枚目ぶりを遺憾なく堪能できる。ただ、それだと一つ間違うと現実離れし過ぎて緊張感を失いかねない。そこを、天知の緩急自在の芝居が引き締めていた。

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー