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せっぱ詰まった人形供養の依頼「捨てても戻ってくる」と怯える青年の恐怖体験

せっぱ詰まった人形供養の依頼「捨てても戻ってくる」と怯える青年の恐怖体験

怪談和尚の京都怪奇譚 「人形」#3

2020/01/03
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捨てたはずのバッグに

 そして今日の朝、玄関の郵便入れに新聞を取りに行くと、そこには捨てたはずのバッグがありました。私は咄嗟にバッグの中身を確認しようと、ジッパーを開け、中に手を突っ込んだ瞬間、「痛っ」指先に一瞬痛みが走りました。反射的に手を引き抜くと、指先から血が出ていました。傷跡をよく見てみると、そこにはまるで、こびとにでも噛まれたような、小さな歯形が付いていたのです。体中の毛穴から冷たい汗が噴き出てきました。

©iStock.com

「絶対に間違いない。誰がなんと言おうと、この人形は生きている」

 そう確信したのはこのときでした。

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微笑む人形

 このままどこかの家の軒先にでも持って行こうかとも思ったのですが、よくよく考えてみると、生きている者を捨てるわけにはいかない。かと言って家に置いておくのも怖いような気がする。そこで、お寺に持ってきたのです。彼女は、怒っているんだと思います。もう要らないからと捨てられたり、気味悪がられたり、人間のわがままによって、翻弄されてきたんでしょう。もちろん私もその1人なわけですが。どうか、今日、成仏させてやりたいんです。

 男性は、そのように話をしてくれました。そして、本堂に行き、私がバッグの中にいる人形を取り出しました。取り出した人形の顔は、男性が言っていたものとは違い、微笑んでいました。それには男性も驚いておられました。

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「今まで、たくさんの人間をなぐさめ、喜ばしてくれてありがとう。そして、心ない人間のしたことを許してください」そう願いながら、無事お焚きあげは終了しました。

 それからも男性は、時折、お寺に来ては、人形のために、手を合わせています。

怪談和尚の京都怪奇譚 (文春文庫)

三木 大雲

文藝春秋

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続・怪談和尚の京都怪奇譚 (文春文庫)

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せっぱ詰まった人形供養の依頼「捨てても戻ってくる」と怯える青年の恐怖体験

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