京都・蓮久寺の三木住職のもとには、助けを求める人が絶えない。ポルターガイストに悩まされる人、人形をお祓いしてほしい、さまよう霊を供養成仏させてほしい……。そんな実話や自身の体験など、現代の怪談、奇譚の数々を収めた『怪談和尚の京都怪奇譚』(文春文庫)より背筋の凍る「人形」を特別公開。見えない世界に触れることで、あなたの人生も変わる……のかもしれない。
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せっぱ詰まった人形供養の依頼
「人形供養をお願いします」
そう頼まれることはよくあるのですが、珍しいと感じたのは、持ってこられた方が、まだ20代そこそこといった感じの男性だったからです。
「承知しました。お預かりして、後日、お焚きあげしておきます」そう私が答えたのは、他にも持ってこられる予定の人があったので、その時に一緒に供養しようと思ったからでした。
それを聞いた男性は、「それでは困るんです。今すぐにして下さい」何かせっぱ詰まった様子でおっしゃるのです。「これは何か特別な訳がある」そう思った私は、この人形にまつわる話を詳しくお聞きすることにしました。
「この人形は、どういった経緯でお持ちになったのですか」そう私は切り出しました。
すると男性は、少し話すのをためらうように、
「人形に聞かれたくないんですが」
そうおっしゃいました。
男性は叫ぶように大声で…
「そうですか。では人形を本堂に置いて、奥の間でお話ししましょう」
そう言って、男性から人形の入ったバッグを受け取りました。そして、バッグから人形を出そうとしたとき、男性は叫ぶように大声で、
「そのまま、そのままバッグから出さないでください」
と言われるんです。男性がかなり怯えておられるようなので、言われた通り、バッグに入れた状態で本堂の前机に置きました。
奥の間といっても、本堂のすぐ隣で、ふすま1枚で仕切られただけの部屋です。温めのお茶を2人ですすりながら、ようやくお話を聞くことができました。
男性のお話によると、人形はなかば強制的に家にやって来たとおっしゃるのです。