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せっぱ詰まった人形供養の依頼「捨てても戻ってくる」と怯える青年の恐怖体験

せっぱ詰まった人形供養の依頼「捨てても戻ってくる」と怯える青年の恐怖体験

怪談和尚の京都怪奇譚 「人形」#3

2020/01/03
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雨に濡れた小さな段ボール

——その日は昼過ぎから雨が降り始め、私が仕事を終えた頃には、かなりきつく降っていました。傘を持って出なかったので、1人暮らしの家に着いた頃には、全身ずぶ濡れでした。鍵を開けようと、玄関の扉の前まで来たとき、そこに小さめの段ボールが置かれていたんです。箱には送り主や差出人の名前などは、一切書かれていませんでした。

 不審に思ったのですが、取り敢えず家の中に持って入りました。段ボールはいつ頃から置かれていたのか、雨に濡れて、箱が歪んでいました。濡れた服を着替え終わって、一息ついてから箱を開けてみると、中からあの人形が出てきたんです。人形は、金髪にドレスの洋風のもので、顔はなぜか怒っているような感じがするものでした。

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「誰かが要らなくなって、処分に困り、この家に持ってきたんだろう」そう思いました。普段の私なら、すぐにゴミ箱に入れるのですが、この時は違いました。

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 人形の服や髪の毛が濡れていたので、かわいそうに感じて、その日は台所の机の上に置き、一晩このまま乾かしてやろうと思ったのです。

罠に掛かった人形

 次の朝、私が朝食のパンを焼こうと、台所に行くと、何かにかじられた跡があったのです。「ネズミが出たのかな」そう思って、出勤前に、ネズミ取りを台所に仕掛けて出かけたのです。出かけてすぐに、人形のことを思い出し、ついでに持って出て捨てれば良かったと思いましたが、今更取りに戻るのもめんどくさいので、帰ってから処分しようと考えていました。

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 夕方、仕事を終えて帰宅すると、仕掛けていたネズミ取りに人形が掛かっていたのです。「何かの弾みで、人形がたまたまここに落ちたんだろう。それともネズミが人形を巣に持ち帰ろうとした途中、引っかかったのかもしれない」

 私は正直、少し恐怖を感じていました。その恐怖を振り払うために、必死で人形が罠に掛かった言い訳を自分にしていたのです。

 私は人形を罠から外すと、バッグに入れて、ジッパーをしっかり閉めました。そしてさらに、バッグごとゴミ袋に入れ、そのまま、近くのゴミ収集場所まで持って行きました。ゴミ袋をそこに置いて帰るときには、なぜか罪悪感のようなものを感じましたが、そのまま走って家に帰りました。

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