本屋さんに行くと、フリーペーパーが気になる。「週末の旅は本屋さん」でも、大盛堂書店の「大盛堂書店2F通信」、TSUTAYA寝屋川駅前店の「ぶんこでいず」、丸善津田沼店でゲットした「晴読雨読(はれどく)」などを紹介してきた。
最近、あちこちの本屋で、「本屋でんすけ にゃわら版」というフリーペーパーを見かけるようになってきた(進駸堂中久喜本店)。店名も作り手の名前も書いていないが、気合いの入ったイラストと手描き文字の、ていねいな作り、中身も、パンのレシピから政治学、外国文学まで幅広い。伝手をたどっていくと、立教大学池袋キャンパス内の書店員さんが作っているという。連絡を取ってみると、お名前も年齢・性別も非公開なら、という条件付きで取材OKが出たため、セントポールプラザ書籍店にペンネーム「でんすけのかいぬし」さん(「でんすけ」はフリーペーパーに登場するキャラクターの名前)を訪ねた。
セントポールプラザは、文具店やトラベルプラザも入る立教大学の購買部的な建物で、2階に丸善が運営する書籍売り場がある。学内の書店だが、表通りに面しており、一般のお客様も比較的入りやすい。実際、近所の方や、旧江戸川乱歩邸を訪ねてきたファンが立ち寄ったりするそうだ。
学校内の書店らしく、品揃えは、語学書・資格書が大きな面積を占めている。4月・5月は、各学部で指定された教科書も多く扱っており、学生や職員は、1割引で本が買える。
「でんすけのかいぬし」さんは、フリーペーパーの印象から、勝手に外国文学や人文書の担当かと思っていたのだが、メインの担当ジャンルは資格書だそうだ。「宅建」「行政書士」「社労士」「色彩検定」「漢字検定」などの検定の種類と、級別(難易度)、出版社(資格書専門の出版社が多い)、年度の組み合わせは多岐にわたり、間違えて前の年度や別の級を買ってしまうと悲劇だ。同じ検定でも、出版社によって、アプローチや説明の仕方が違うので、どれを買えば勉強しやすいのか、比べて買いたい。ジャンル分けをどうすれば売れるか、陳列は級別か出版社別か、プッシュしたいシリーズをどう目立たせるか、工夫して並べて、2週間で結果が出なければ元に戻す。棚を観察し、本が乱れていれば、あ、この本を手に取ったんだなとチェックする。どのシリーズがどのくらい売れるのか、前年の数字に基づいて予測し、仕入れ、新版が出たらきちんと並べ、売れたらすぐに補充する(買いに来たときにほしい本がちゃんとある)、手をかければちゃんと売れる、耕して水をやって、世話をすれば収穫に結びつく、手応えがあって大好きなジャンルだそうだ。
「でんすけのかいぬし」さんは、この店に勤める前は、新古書店で働いていたそうだ。新古書店では、だれもが売り場を作れるように作業をマニュアル化する、マニュアルに従って陳列して、数字に基づいて評価する、欠品があれば1秒でも早く棚を埋めて棚効率を高める、そんな経験をしてきた。そこで培われたものを活かし、そこではできなかったことを試して、今の売り場を作っているという。