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ディープなだけじゃない売場

 外国文学の充実も、進駸堂中久喜本店の特徴だ。トマス・ピンチョン、フィリップ・K・ディック、カズオ・イシグロ、ミランダ・ジュライなど、SFファンや外国文学好きなら、おおっと思うようなラインアップを展開している。鈴木店長によると、必ずしもたくさん売れるわけではないが、周辺で外国文学を置いてあるお店が少ないので、力を入れているとのこと。作者のプロフィールやあらすじを記載したPOPを添えたり、村上春樹翻訳のタイトルだけ集めたコーナーを作ったりして、ハードルを下げ、手に取りやすいように工夫している。

 いくら本好きが集まる店とはいえ、読者はプロではないから、購入前に充分な商品知識を持っているわけではない。日本人作家にしても、メディアにはあまり登場しない村上春樹が実際何歳くらいのどんな顔の人か、有川浩や乾くるみが男性か女性か(ひっかけ問題的なネタですがご存知ですか?)、ましてやそれぞれの作家が最近出版した本が何なのか、知らなくて当然だ。進駸堂中久喜本店では、きちんと顔が見えて親しみが持てて、代表作や近刊がわかって安心して手に取ることができるように工夫している。表紙を正面に陳列してあるため1冊が占めるスペースを贅沢に使っていて、決して品揃え数は多くないが、何万冊という在庫数を誇るのではなく、1冊ずつていねいに見せることに徹している。

力の入った外国文学。
文芸書は、文字通り作家の顔が見える陳列。

 作品を手に取るきっかけになることは何でもやってみる。出版社のPR誌や他店のフリーペーパーを置いたり、栃木県内の書店で共通の推薦図書を挙げたスタンプラリーをやったり、メルマガやブログ、ツイッターもやっている。自店の発信力だけではなく、お客様の情報発信も活用する。お客様同士のトラブル防止やデジタル万引き(地図や情報誌を購入せず、携帯で撮影してしまうこと)の防止のために、店内では写真撮影禁止の本屋さんが多い中で、進駸堂中久喜本店では、力の入った陳列、珍しい選書などに「写真撮影OK」のステッカーを出して、積極的にSNS投稿を促している。必ずしも直接の来店につながらなくても、プラスの評価はスタッフにとっても、常連客にとってもうれしいし、進駸堂のブランディングにつながる。鈴木店長にSNSのリスクについて聞くと、万が一マイナスな評価がついたとしても気にしないと前向きだ。

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横のつながりで、他店のフリーペーパーも置く。
店内撮影、SNS投稿OK。

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