「にゃわら版」の強さ
文学や文庫は、必ずしも資格書のようにシステマチックにできるわけではない。何が売れるのか、予測がつかない。特に、セントポールプラザ書籍店は、メインの顧客が若者だからラノベとコミックが売れるとか、全国的に人気だから大量に仕入れても必ず売れるとか、テレビで勧められたから、全国の書店員が号泣という帯がついているから、そういう傾向が当てはまらないという。逆に、文豪や外国文学、重めのタイトルでも敬遠されない。人気タイトルを大量陳列してばーっと売るようにはいかないが、マイナーな作品でも、手に取ってもらえるように、手前に並べてみたり棚に複数冊差してみたり、手をかけて売っていくのは楽しいという。
「本屋でんすけ にゃわら版」は、ほぼ月刊のフリーペーパーだ。新古書店に勤める前はイラストレーターをやっていたという経歴を聞いて、納得のクオリティで、ロゴもイラストも、ほぼ正方形の形状も、完成されたパッケージだ。テーマを決めて本を選び、紹介文を考え、イラストを描き起こし、ペン入れまで、一切手を抜かない。どんな形が手に取りやすいか、どんな紹介文が魅力を伝えられるか、徹底して考えた結果が形になっている。
紹介文とイラストがバランスよく配置された1ページは、そのままのサイズでカード型のPOP広告として活用できる。約10cmの正方形で、並べたときに文庫本を隠してしまわない絶妙なサイズだ。リアルに描き込まれた細密描写から、ポップで軽妙なデザインまで、作風が幅広く、しかも、存在感がある。セントポールプラザ書籍店では、出版社支給のPOP広告はほとんど使われておらず、「にゃわら版」コーナーなどのごく限られた場所に、この正方形のカードが掲示されている。
イラストレーターだったから、もちろん、イラストは巧い、でも、それ以上に「にゃわら版」は強い。どうすれば手に取ってもらえるか、どうすれば売れるか、徹底して考え、試行錯誤して、売り場で検証してきた資格書におけるアプローチと同様、「にゃわら版」の紙面でも、POP広告の付け方でも、お客様の反応を考えて、試行錯誤して、信念を持って続けてきた結果、無駄なものをそぎ落とした、お客様の目に飛び込んでくる強さを身につけたのではないかと思う。「でんすけのかいぬし」さんの年齢・性別・顔も非公開なのは、フリーペーパーの読み手に先入観を与えたくないからとのこと、「にゃわら版」にも店名すら書いていない。それも、徹底してお客様の反応を見るためなのではないだろうか。
そんな「本屋でんすけ にゃわら版」は、セントポールプラザのサイトでバックナンバーも読める。ダウンロードして配布も可能だ。