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心が温まる「泣ける話」

2020/01/01

 演芸分隊は1年中梅雨のような密林の中で飢餓と病いに苦しむ兵士たちの希望の灯のようになってゆく。衰弱した体にムチ打って河を泳いで渡ってでも見たい、タンカで運ばれてでも見たい、という程の存在になってゆく。5カ月がかりで「マノクワリ歌舞伎座」も建設した。

 この本一番のハイライトは、タイトルにもなっている通り「南の島に雪が降る」ところだ。

ニューギニアの戦い(連合国軍) ©AFLO

 著者は長谷川伸の『関の弥太ッペ』を上演するにあたって、原作では雨降りの場を雪景色の場に変えたいと願っていた。重態の危篤患者に「なにか、ほしいものは?」と臨終の病人にいう決まり文句を言ったら、「雪を見たいなあーッ」と嘆息したのが、その人の最後の呼吸だった──ということがあったからだ。

 上官に相談すると「パラシュートを使えばいい」と言う。そうか、そういう手があったか。舞台一面に毛布を積み重ね、その上に白いパラシュートの布を敷くと、ほんとうに積もった雪のように見えるのだ。木や屋根に積もっている雪は病院の脱脂綿を利用。降る雪は細かく三角に切った白い紙。

 この雪の場面は大好評だった。大詰の雪の場になると「雪だアッ!」という叫びが爆発して、いつまでも消えない。著者と和尚は観客たちに十分雪見をさせてから、舞台に飛び出してゆく。

加東大介氏は映画『羅生門』にも出演した(右) ©Ronald Grant Archive/Mary Evans/共同通信イメージズ

 ところがある日、異変が起きた。雪の場面になっても、いつものどよめきが全然起きないのだ。著者と和尚は不思議に思い、客席をのぞいたら──

「みんな泣いていた。300人近い兵隊が、1人の例外もなく、両手で顔をおおって泣いていた。肩をブルブルふるわせながら、ジッと静かに泣いていた」