著者と和尚は言葉を交わす。「今日の部隊は?」「国武部隊ですたい」「どこの部隊ですか?」「東北の兵隊とです」──。
2人は胸を詰まらせ、思い切って舞台に飛び出し、ヤケッパチのように動き回った。涙が次から次へと雪の上に落ちた。
終演後、隊の将校が挨拶にきた。将校は深々と頭を垂れて、こう言うのだった。
「ほんとうにありがとうございました。ウチのものは、みんな、雪のなかで生まれて、雪のなかで育った連中ばかりなんです」
もうこれだけで、私なんか涙ボロボロなのだが、将校の話はさらに続く。「ウチの隊に、もう歩けなくなっている病人が、なん人かおります。そのものたちにも、この雪を見せてやりたいんです(略)今日の舞台を、あすの朝まで、このままにしておいていただけないものでしょうか?」
さて翌朝、著者が目にした光景とは……。
「ソデから舞台をのぞくと、パラシュートを敷いた上に、タンカごと2人の病人が寝かされていた。
2人とも、重症の栄養失調患者に独特の、黄色い顔色である。それが、タンカに寝かされたまま、手を横に伸ばして、きのう散らした紙の雪を、ソーッといじっていた。もう力の入らない指先で、つまんでは放し、放してはつまみ、それをノロノロしたスローモーションでくりかえしているのだ。もう表情は失われていた」
私は涙しながら、不思議に思う。なぜ私はこの話に胸をつかれるのか。愛郷心とか愛国心といった一言ではおさまり切らない何かを感じる。人びとの心のまんなかにあるらしい何か。それは簡単に言葉に置き換えないほうがいいような気がしている。