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クリスマスに小林幸子化するマライア・キャリー、なぜこんなに面白い?

2019/12/24
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 10月31日23時59分、ハロウィン仮装でロックスターのコスプレをしたマライア・キャリーがベッドに倒れ込む。時間が11月1日0時に変わった瞬間、マライアの電話が鳴る。着信は「サンタ」から。いつの間にかコスプレからクリスマス用パジャマに変身したマライアが電話を取って叫ぶ。「時間よ!」。そして流れる音楽……なんだか紅白歌合戦の小林幸子のような大変身だが、じつは、これは壮大な計画の始まりであった。


 マライア・キャリーはクリスマスの女王だ。1994年にリリースされた『恋人たちのクリスマス(All I Want for Christmas Is You)』は、25周年を迎えた今、「12月のアメリカでこの曲から逃れることは不可能」と言われるほどの定番ナンバーとなっている。つまり、もはや「ホリデー・シーズン=マライアの季節」状態なのである。前述した変身動画は、『恋人たちのクリスマス』を聴く時期が到来したと知らせる主旨のコメディーなのだ。

25周年を迎えた今、ビルボードチャート1位に

 変身動画が公開された3週後には、音楽配信サービスSpotifyより本格的な「クリスマス開始」お知らせムービーがリリースされている。こうして巧みに話題をつくりつづけた結果、『恋人たちのクリスマス』は、12月3週時点で若手を押しのけるかたちでBillboardチャート1位に輝いた。

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 お笑い芸人のようなビデオに面食らったかもしれないが、これこそ、彼女の強みとも言える。おなじく伝説的地位を築いたマドンナやビヨンセと異なり、マライア・キャリーは自ら面白いことをやってウケるセンスと能動性を持つスターなのだ。

©︎getty

 1990年代のデビューした時には「清純派」として売り出されたマライアだが、レコード会社幹部との結婚が破綻してからは「これが本当の姿」だと言わんばかりに、バブリーかつセクシーで、おとぎ話のようにファンシーな世界観を打ち出していった。その「ワガママお姫様」具合がバッシングされようと個性を貫いた結果、みずからバブリーさをジョークにする領域に到達したのである。