昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

特集2019年 忘れられない「名言・迷言・珍言」

2019/12/29

genre : ニュース, 社会

いつしか「何をやっても無駄だ」と絶望

「そのうち、きっと暴力はなくなるだろう」と思ってあれこれと試行錯誤をくりかえしても、状況はよくなるばかりかますます激化するだけで、いつしか「何をやっても無駄だ」といった絶望感に苛まれるようになりました。母とは何度か「もう、殺してしまうしかないんじゃないか」と話をすることはありましたが、最後にはいつも「自分が産んだ子を手にかけることはできない」と問題をうやむやにするばかりだったのです。

 私が正気を取り戻したのは、「他者」がたまたま私の異常に気が付き、家から逃れられるよう説得し、手助けをしてくれたからでした。危険にさらされることもない「安全な場所」を手に入れて初めて、私は「これまでの自分がいかに正常な状態ではなかったか」を知ることができたのです。

 おそらく世の中には、人生に絶望しつつも、誰にも助けを求められない人がたくさんいるのだと思います。もしかすると、彼らは自分自身の精神が追い詰められ、正常な判断ができなくなっていることに気が付いていないかもしれません。

©吉田暁史

いざというときのために「命綱」を

 だとすれば、これから先、私たちにとってなくてはならないものは「つながり」です。誰かが危うい状態になったとき、いち早く異変に気づけるよう相互に見守り合う環境を作らなければ、今後も孤立してしまう人を減らすことはできないでしょう。ことさら、社会保障がじゅうぶんに機能しているとは言えない現代の日本においては、民間でも、ひとりひとりがセーフティネットの役割を担うことは必要不可欠だと言えます。

 例えば、問題を抱える当事者自身が集まって平等な立場で話を聞き合い、きめ細かなサポートをしあう「ピア・カウンセリング」を取り入れるのも有効な手段のひとつです。ピア・カウンセリングでは、自己決定権や自己選択権を育て合い、隔離されることなく、平等に社会参加していくことで、地域での自立生活を実現することを目的としています。

©吉田暁史

 誰しもがこうした「命綱」を持っておくことは、自分の身を守るためには欠かせない手段ではないでしょうか。これから先、日本が「人からこんなに優しくしてもらったことは、今までなかった」という言葉を再び聞くことがない社会であればと、切に願います。

 青葉容疑者はこれから、病状が回復して、勾留に耐えうる状態になれば逮捕されることになります。事件発生から、もう5ヵ月が経ちました。事実を明らかにしたうえで、然るべき刑によって罪を償ってほしいと思っています。

この記事の写真(5枚)

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー