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「この先にもっと魚が釣れる場所があるんですよ」

 ただ、この家族はなぜ、こんな夜遅くに小さな子どもを連れて出歩いているのだろう……。そんなことを思っていると、お父さんらしき人がヌーッとK君の前にやって来て、「ここは釣れないでしょう。この先にもっと魚が釣れる場所があるんですよ。一緒に行きませんか」と、誘ってきました。

 もしかしたらここは、仲間から教えてもらった釣りスポットと、少しズレていたのかもしれない。そう思いながらもK君は躊躇しました。なぜなら、彼らとはいま出会ったばっかりですし、何よりもその家族には、うまく言葉にできないながらも、妙な違和感を覚えていたからです。

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 そこでK君は、「彼女と来てるんで……」と断ろうとしました。しかしその瞬間、彼の言葉を遮るように彼女がこう言ったのです。「行こうよ、連れて行ってもらおうよ」と。

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 気が乗らないK君でしたが、彼女はいつにも増してしつこく誘ってきました。なんだか違和感はありますが、向こうは子供連れなので、まぁ、変なことはしてこないだろう――。彼は迷いながらも結局、その家族についていくことにしました。

家族に感じていた違和感の正体

 しかし、“父親”が「こっちですよー」と、彼を導くように後ろを向いた、そのとき。何気なく見えたその首元に、K君の視線は吸い寄せられました。

 本来隠れているはずの服のタグが、見えていたからです。

「あれ!?」

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 彼は確かめるように、その家族全員の服装をまじまじと見ました。そして……先ほど感じていた違和感の正体、それに気づいたんです。

 父親だけでなく、母親も、娘も、息子も、みんな服が裏返しだったのです。ズボンもスカートも何もかも……靴までも、左右あべこべに履いている――。