出産後半年くらい家に籠っていた時、小説が集中して読めなかった
――『七緒のために』(12年刊/講談社)は、女の子同士の友情の話でした。友情を前面に出して書いた小説はなかったですよね。
島本 はい。女同士の話になると、私の場合だいたい同性愛の話になってしまうので。担当の方から「今までにないものを書いてください」と言われて、それで女の子同士の話にしました。しかもちょっと虚言癖のある女の子を書こうと思ったんです。実際に自分が学生の頃に虚言癖のある女の子の友達がいたんですね。当時はすごく振り回されたんですけれど、今から思うと、もうちょっと何かしてあげられたんじゃないかという気持ちもあって。それを振り返りながら、今なら何が言えるかなと考えながら書きました。
――その次が、『よだかの片想い』。本当に可愛らしい、でも後半はすごく切ない恋愛小説でしたね。これも発表予定もないうちに書きはじめたということですが。
島本 しばらく重い話が続いたので、もう明るくて強くて真っ直ぐで、誰が読んでも希望のある小説を書きたい!と思って書きはじめたものです。芯がしっかりしていて、だけどちょっとコンプレックスのある女の子が、より自由に強くなるまでを書きたい、成長するまでを書きたい、という気持ちでした。
――その通りの作品だと思います。この『よだかの片想い』が刊行された時期に島本さんにお話をうかがっていたら、「今、官能的な、めくるめく話を書いています」とおっしゃっていて、どんな話なんだろう、と(笑)。それが『Red』だったんですね。島清恋愛文学賞を受賞した『Red』は、夫の両親と夫、幼い子どもと暮らしセックスレスに悩む専業主婦が、かつて関係のあった年上の男性に再会して、快楽に引きずられていく。復職も果たして、仕事と家庭と恋に関する30代女性のさまざまな思いがつまった長篇ですね。
島本 『アンダスタンド・メイビー』を書き終えた後寂しくて寂しくて、あれだけ長いもの、次どうしよう、って。青春を全部使ったものを書いてをしまって空っぽになったんですね。
なので、ここで同じようなものを書いたらたぶんうまくいかないので、もう一気に変えよう、と。私が今までに興味があるけれど書いていないものといえば、官能だ!って(笑)。ちょうどその時期に読売新聞のウェブのほうから連載のお話をいただいて、「読者層はどうですか」と訊いたら「40~50、60代の男性です」と言われたので、「じゃあ官能を書きます!」と宣言したら、最初からアクセス数がすごくよかったんです。反響が毎回目に見えてあるので、そのぶんすごく乗って書きました。普段はなかなかリアルタイムでの反響は分からないので。
――その前の時期、育休している頃に女性誌をいろいろ読んでいたら今の女性の抱える問題が見えてきて、それも反映したというお話でしたよね。
島本 そうですね。出産後半年くらい家に籠っていた時に、小説が集中して読めなかったんです。読んでいると途中で「オギャー」とか横で聞こえてくるので。で、女性ファッション誌ばかり読んでいたんですが、女の人が気になっていることが特集で組まれているじゃないですか。結婚・出産問題、不妊治療、嫁姑問題など、「女性の今」というものを目の当たりにした気がしました。自分自身も「え、なんなの、この不自由」って思うことがありましたし、「仕事と家庭の両立、無理じゃない?」「女の人ばかりがこんなことしてたら持たないよ」とか、すごく言いたいことがいっぱいあったんです。それがいい時期に、30代女性の官能という形で出ましたね(笑)。それに出産を経験したことで、もっと女性の業について書いてみたい、という気持ちも湧いてきて。小説をまた読み始めてからは、そういう作品をより好んで読んでいました。