読者からの質問「ご結婚とご出産、子育てを通じて小説観は変わりましたか?」
●島本さんが10代の頃に読んで救われたと感じた本は何ですか。(40代女性)
島本 吉本ばななさんの『とかげ』です。特に表題作が好きです。とかげの刺青のある女の人に恋をする話で、最後にギリギリのところで持ち直すくだりがすごく清らかで……ラスト、1、2行が泣けます。
●いろいろな作品を発表している島本さんですが、純文学と大衆文学の違いは何だと思いますか。ご自身が執筆する際、書き方は変わりますか。(40代女性)
島本 純文の時は個人的な内面を投影することが多かったんですけれど、エンターテインメントで書く時は、その時社会で問題になっている出来事だったり事件だったりとかを拾いつつテーマを広く大きく持って、時間軸も長いストーリーになることが多いです。
●島本先生にとってリスクとは何ですか。(20代女性)
島本 自分が納得できない、不快な状態に陥るかもしれないことですね。現実的にお金がなくなる、とかよりも。
●やり直せる人生はあると思いますか。(10代女性)
島本 ないと思います。たとえば人を傷つけたとしたら、壊れた関係は完璧には修復できないし、失敗する前の時間には戻れない。でもそこで終わりなわけじゃないんですよね。代わりの新しいものはかならずやって来るから。自分もいろいろ後悔もするんですけれど、とりあえず生きているんだからよかった、くらいに思ったほうがいいのかなって、最近思っています。
●ご結婚とご出産、子育てを通じて小説観は変わりましたか。(30代女性)
島本 変わりました。子どもが生まれた後に自分の本棚をふと見たら、私は子どもがいない女の人が主人公の小説しか持っていなかったことに気付きました。主人公が若いか、独身か、結婚していても子どもがいないかっていう。やっぱり、今までは主人公に子どもがいる話にあまり実感が湧かなかったというか、とくにそこには関心がなかったんだなと気づいて、自分でびっくりしました。だから、読む小説も変わりました。今までは女性の身体感覚がわりとリアルに書かれているものが、生々しくて少し苦手だったんです。でも出産という最も野性的で生々しいことを経験した後は平気になりました。
●今まで生きてきて何が一番うれしくて幸せだと思いましたか。(30代女性)
島本 嬉しいとはちょっと違うかもしれませんが、すごく弱っている時に見た風景ほど、眩しいものとして記憶に残ってるんです。そういう時に、「ああ、世界ってきれいだな」と実感するし、感動しますね。普段忙しかったりすると、そういう風景って見逃してしまうから。
20代ですごく調子が悪かった時に突然一人で山に登って、山のてっぺんで、すごい風の中、断崖のところにある展望風呂に入ったことがあります。まわりの景色が全部見渡せて。その時、「ああ、自分はまだまだ生きていけるな」って思いました。
他には、すごく落ち込んだ時に一人で東尋坊に行ったことがあって。死ぬんじゃないかと思われたようで、友達からいっぱい電話がかかってきたんですけれど(笑)。たまたま曇っていたんですが、東尋坊に辿りついた瞬間一瞬だけ晴れたんです。あそこって本当に絶景なんですね。その時も「世界ってなんてきれいなんだろう」って思って、元気が出ました。
●旦那さんの佐藤友哉さんと、小説や創作の話はしますか。お互いにアドバイスをしたり、相手の作品の感想を言ったりもするのでしょうか。(40代女性)
島本 ああ、私は夫の本を読んでいるので感想を言いますけれど、夫は私の小説を読んでいるのかよく分からないので、常に一方的ですね、常に(笑)。読んだ本の話はお互いによくします。創作については、相談したりはするんですけれど、どちらかといえば「主人公の名前で何かちょっとお金持ちっぽい苗字、ない?」といった、具体的な相談が多いです。「なんだっけ、軽んじている感じの言葉で…」「軽蔑?」「じゃなくて、自分を下げる感じ」「卑下?」「あ、そうだ」とか。
佐藤さんは佐藤さんで「ねえねえ、女の子が目の上に塗ってる、あれ何だっけ」とか訊いてきます。「アイカラーのこと?」「アイシャドーじゃないの?」「今もうそんな言い方しないよ」という感じです(笑)。