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官能に挑戦した『Red』で島清恋愛文学賞を受賞

――具体的にはどんな作品ですか。

島本 村山由佳さんの『ダブル・ファンタジー』(文春文庫)や、山本文緒さんの『恋愛中毒』(角川文庫)、それと川上弘美さんの『真鶴』(文春文庫)ですね。そうした作品を読んで、自分も女性の性や業について書いていたい、と思ったんです。

――官能に挑戦してみて、いかがでしたか。

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島本 官能はテクニックだと思いました。今までも官能小説の方ってたくさん作品出されていてすごいなと思っていたんですけれど、自分が書いた後ではもうその「すごいな」が段違いに上がりました。あんなに毎回手を替え品を替え、同じ行為を描写するって、凄まじいテクニックですね。1行増やしたり減らしたりしただけで、ちっともいやらしくなかったり、逆にいやらしくなりすぎたりするので、これは文章力が要るなと分かりました。すごく勉強になりました。今まで、あまり露骨なことを書くのが好きではなかったんですけれど、いざ力を入れて書いて手応えを感じたら、もっといろいろ書けるんじゃないかという気になりました。

――あれ、この間別のインタビューでお会いした時、「力を入れて『Red』を書いたので、もう当分セックスは書かない」っておっしゃっていましたよね?(笑)

島本 そう、そう言った後に、新しい小説を書きはじめたら、すごくエロくなってしまって。すみません、あの発言は間違いでした(笑)。ただ、官能を書くって、すごくセンシティブだと思ったんです。子どもにホットケーキ焼いて「バターどこ?」って聞かれたり、掃除機掛けたりしている延長で官能小説は書けないな、と(笑)。だから『Red』を書いている時期はそのテンションを維持するために、大人な旅館に取材に行ったりしました。

――『Red』で島清恋愛文学賞を受賞された時のスピーチで、「九死に一生を得た気分」と、まるで遭難から生還したかのようなお話をされたそうですね(笑)。

島本 (笑)。『Red』を書き終えて若干燃え尽きていたので。長いもので手応えあるものを書き終えた後って、本当に燃え尽きるんです。

――そして、その後は先にうかがった『匿名者のスピカ』と『夏の裁断』を刊行されたわけです。今後チャレンジしてみたい題材ってありますか。

匿名者のためのスピカ

島本 理生(著)

祥伝社
2015年7月23日 発売

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島本 今、法廷の取材をしているんです。ガッツリ法廷ものとか裁判ものを書きつつ、これからしばらくは新しく挑戦するというよりは、今まで書いてきた要素をもっと成熟させたいですね。悪い男を書きつつ、家族の問題も書きたいし。自分が興味のあることはだいたい書いてきたので、それをもっと一段深い、成熟させた状態で、作品の完成度を上げていきたい、というのがあります。それと、やっぱりエンターテインメントを書くと言ったので、もっともっと物語を俯瞰して、バランスを考えながら書きたい。読者が読んで感動できるものや泣けるもの、明るい気持ちになるものなど、もうちょっと作品の方向性をストレートに分かりやすく決めて、読者の方が楽しめるものを書いてみたいと思っています。