デビュー14年、「挑戦」から「成熟」へ
――予定している法廷ものとは、どういう内容なんでしょう。
島本 事件を起こした加害者側の心の闇を書きたいという思いがすごくあるんです。今考えているのは、年齢を超えた女の友情というか、同性同士で救済しあう小説です。しばらくは、ちゃんとした愛情ではない恋愛を書くのはやめようと思って(笑)。そうしたものはサブのところに置いておいて、メインは主人公と、罪を犯した女性の関係性にして、そのなかで、母と娘の闇であったり、逆に救いだったりも見えてくるようにしたいですね。今はまだ取材中で、少しだけ書きはじめています。『別冊文藝春秋』に連載する予定です。
――ほかに執筆中のものや刊行予定などはありますか。
島本 『小説すばる』の「イノセント」という連載が長期化していて、これも長い小説になりそうです。来年には単行本になるかと思います。今までは主人公が一方的に男性に尽くしていることも多かったので、今回は男性のほうが主人公をまっすぐに愛している話にしよう!と。ようやく普通の愛らしい愛やハッピーエンドを書くことができるかな(笑)。それが完成すると、風通しがよくなる気がします。
『群像』に書いている連作短編はお金と性と宗教と若い女の子の話で、ホストクラブが出てきたりミスコンが出てきたり女同士の嫉妬があったり性暴力があったりと、かなり業が爆発しているので、連載が終わったらバランスを見て、時期を見て本にまとめたいなと思っています。
『パピルス』で連載している「僕は銀のフォークと薬を手にして」はHIVに感染している年上の男の人と、アラサーでそろそろ結婚したいけれど仕事も好き、という女性主人公が出会う話で、これはベースに食と旅というテーマがあります。自分の身体がいつどうなるか分からないからこそ、食べる時間や観る風景を大切にしようとするんですね。重くなり過ぎないようにしたくて、逆に柔らかい感じ、温かい感じを心がけています。これの連載はまだもうちょっと続きます。
――それにしても、まだお若いのに、もうデビューして14年なんですね。
島本 ずっといろいろ挑戦したい気持ちでやってきましたが、そろそろ今までやってきたことをより成熟させる時期だなと思っています。最近は広げるよりは、一本に絞っていこうと思いますね。さすがにもう新人ではないので、もう一段階構成力があったり深みがあるものを提示していきたいです。
これまでは結構その時の気持ちで書くことが多かったんですけれど、今回ジャンルのこともいろいろ考えたりして。じゃあどういうのが自分らしい小説なんだろうと思ったんですが、よく分からなくて。これは人に訊こうと思った時、やっぱり読者が一番知っているだろうし、読者が素敵だと思うものを書くのが一番だから、ツイッター上で「どの小説が好きですか」って訊いたんです。返ってきた答えを見て、深夜に「正」の字を書いて、全部統計を取りました(笑)。
自分らしい作風ってこういう感じか、ということがはじめて目に見えて分かったというか。やっぱり、皆さんが好きなのは、切ないけれどどこかに希望だったり眩しさがあるもので、私自身も好きだと思っていたものでした。これでよかったんだなって分かりました。だから、そうした作品で、より精度の高いものを目指していこうと思っています。
あとはもう、優れたエンターテインメント小説をいっぱい読みたいですね。勉強したいです。