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「初めて女優さんになりたいと思えた」

 松岡茉優がインタビューで語る言葉はいつも水際立っている。『万引き家族』のインタビューで語った「(安藤サクラさんや樹木希林さんを見て)初めて女優さんになりたいと思えた。(女優という言葉ではなく)今まで俳優と一人称で名乗ってきた、でもお二人を見て“女優がいい”“女優になりたい”と思えるようになった」という言葉は、押しつけられた女性性を再定義し、自分のものとしてとらえ直すというフェミニズムの概念をたった数語に凝縮したかのように鮮烈で、また同時に安藤サクラや樹木希林が何者であるのかという美しい批評文にもなっている。

第71回カンヌ国際映画祭に登場した是枝裕和監督と『万引き家族』出演俳優・女優たち ©Getty Images

 昨年末に「暮しの手帖」に掲載された「あなたに届くまで」という短いエッセイは、表現のリーチが広がるほど人を傷つけるが 、それでもリスクを背負って表現をしていく必要があるという、彼女の職業の本質についての見事な随筆になっていた。

 彼女はいつも、舞台挨拶やインタビューの場に 、何をどう伝えるか考え抜いた言葉を手土産にやって来る。申し訳ないが、 記事によってはお決まりの宣伝と定型文に慣れた芸能記者の方が彼女の言葉に追いつけていないのではないかと思う時もあるほどだ。

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 事務所の移籍のため閉鎖されてしまったブログや、今は終了してしまったラジオ番組で彼女の言葉に直接 触れることのできた昔からのファンはなんと幸運なのだろう。若くしてこれほど自分や周囲の状況を客観的に分析する理性を持つ女優の語る言葉に、エッセイやラジオでもっと触れたいと思う観客は多いはずだ。

単に語彙や表現が豊かなだけではない

 冒頭の言葉を回想したインタビューで、彼女は同世代の女優たちについても語っている。それは単にあの子やあの子とは仲がいい、という内容ではなく、親友の伊藤沙莉や橋本愛、二階堂ふみや土屋太鳳についての短く力強い批評であり、エールにもなっている内容だった 。

 雑誌『日経エンタテインメント!』のインタビューでは、上の世代の高畑充希、下の世代の広瀬すずについて触れ、「ここから世代交代が始まって、私たちがテレビドラマや映画のムーブメントを起こしていかなきゃならないはず。新しい時代は私たちのものなんだという意識をもって、それぞれの歩幅でやっていけたらいい」と語り、シネマトゥデイのインタビューでは子役時代から一緒に活動した同世代の松本花奈が今は映画監督になっていることにふれ、同世代の監督が増え始めていると語る。

 単に語彙や表現が豊かなだけではない。『ちはやふる 下の句』で彼女を映画賞に導いた小泉徳弘監督も彼女の頭の回転の速さに舌を巻いたという が、明らかに広い視野、パースペクティブを持って自分と同世代の女優たちの状況を俯瞰しているのだ。

映画「ちはやふる?下の句?」初日舞台あいさつで感極まる主演女優の広瀬すず(左)の涙を拭う松岡茉優 ©時事通信社

 主演第二作『蜜蜂と遠雷』は日刊スポーツ映画大賞の主演女優賞を早くも彼女にもたらした。来年には『劇場』『騙し絵の牙』などの映画公開が控えている。新しい年、新しい時代の映画について、きっと松岡茉優は僕たちにまた新しい言葉を語ってくれるのではないかと思う。