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 私自身も取材を通じて、被害者の経験は様々だと痛感することが多々ある。例えば元徴用工の話を聞いても、応募して働きに出た者もいれば、徴用令状を受けて止むなく日本に行った者もいる。労働環境も就労場所や地域によって様々だ。韓国内での通説となっている「強制連行・奴隷労働」という表現に、必ずしも全てが当てはまるわけではない。 

大法院判決で「命の値段」に疑問が

 また徴用工裁判において、大法院判決で約1億ウォンの慰謝料支払いを命じる判決が出たことで、被害者団体のなかからは、「命の値段」についての疑問の声も上がっている。 

「太平洋戦争での死者に対しては韓国政府から2000万ウォン(約200万円)の補償金が支払われました。戦争で家族を失って苦しんだ金額としては、十分ではないという声もあります。ところが日本で数年働いて生きて帰ってきた元徴用工に対しては1億ウォンが支払われる可能性がある。これは戦死者を超える金額です。このことについては『私たちの今までの苦労は何だったのだろうか』と疑問を感じています」(太平洋戦争の遺族) 

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韓国政府が太平洋戦争における死者や行方不明者、その遺族らを対象に発行した「慰労金等支給決定書」(著者提供)

 戦争被害者をどう救済するのかは世界中で考えなければいけない大きなテーマだ。いま論じられている文喜相案は本質的には対症療法でしかなく、必ず将来に禍根を残すことになるだろう。被害者間に格差を生むことで怨嗟の声が沸き起こり、新しい歴史解釈を主張し裁判を起こす者も現れるだろう。

 極めて困難なことではあるが、こうした騒動を避けるためにも、まず実態調査を日韓で行い歴史を共有することは「必須」だともいえる。実態調査を行い記憶と記録を残すことは、現実の解決を志向するうえで必要なだけではなく、将来、同じような不幸が繰り返されることを回避するための知恵にもなりえるからだ。 

文喜相議長 ©AFLO

三権分立の名の下に合意を無効にする動きが続く

 聯合ニュースは23日、〈旧日本軍の慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓合意について、韓国憲法裁判所が27日に合憲か違憲かの判断を下す〉と報じた。 

 幸い27日に憲法裁判所によって訴えは却下されたが、こうした”ゴールポストを動かす”ような行為が韓国内では続いている。 

 こうした状況を見つめ一つ言えることは対症療法的な対策だけでは、これからも日韓葛藤は続くことになるだろうということなのだ。