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今は、経験しないことは書いていない

――今の時代の常識や価値観を問い直すような作品が続いていますね。

朝井 『桐島、部活やめるってよ』(2010年刊/のち集英社文庫)や『何者』(2012年刊/新潮社)でも、時代を反映したものを書くと言われるのがあまり嬉しくなかったんです。今の世の中で起きていることを書くなんて、そこに自分自身のメッセージはないんですか? と言われているみたいで。でも『武道館』を書いたことで開き直りました。ここ2年くらい、世の中で起きている変化に対して感じたことを書きたいなと思っていて。これから3年くらいはそう思い続ける気がしています。年齢的なものなのかわからないですが、そういうモードなんでしょうね、きっと。

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

朝井 リョウ(著)

集英社
2012年4月20日 発売

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何者 (新潮文庫)

朝井 リョウ(著)

新潮社
2015年6月26日 発売

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――その「起きていること」は、身近で起きていることですか、それともニュースなどを見て感じることですか。坪田譲治文学賞を受賞した『世界地図の下書き』(2013年刊/集英社)は、部活で虐めにあって自殺した少年のニュースがきっかけのひとつだと聞きました。若い世代にセーフティーネットがないことを感じて書かれたとか。

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世界地図の下書き (集英社文庫)

朝井 リョウ(著)

集英社
2016年6月23日 発売

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朝井 ニュースなどを見て感じることですね。気になるニュースの資料を読んでいろいろ考えていると、大体、いつの間にか自分の中にあるとてもパーソナルな部分に繋がるんです。昨日も、年末から書きはじめる小説のプロットを作っていたんですが、実際に起きた事件の資料を読んでいた時は遠い世界の話に思っていたんですが、プロットに落とし込んでいくうちにどんどん自分の感情の吐露のようになってきて、「やっぱり、出来事を要素レベルにまで分解していくと、世界で起きていることは自分自身に起きていることなんだな」と思いました。

――読者からの質問を募集したところ「自分の経験をもとに書いているんですか」という質問がたくさんきました。

 

朝井 1%も自分の経験と重ならないことは書いていないと思います。『スペードの3』(2014年刊/講談社)でミュージカル女優さんの話を書きましたけれど、あれだって人前に出る職業という意味では自分と似ているところがありますし。細かい網目の上に小説を載せてガーッと篩(ふる)っていたら、最後の最後には僕の中にあるものが残っていくと思います。

 まったく知らない人のことを書く時も、無理矢理自分と結びつくところを見つけている気がします。自分と重なるところが1ミリ四方でもあったら、重なっていないところが100ヘクタールくらいあったとしても、書けるように思います。みんな同じ人間だし、っていう気持ちはどこかにありますね。

スペードの3

朝井 リョウ(著)

幻冬舎
2014年3月14日 発売

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――朝井さんがはじめて書いた物語は人ではなく、ネズミの話でしたよね。

朝井 そうです。5歳くらいでした。文章を書くことが得意な姉がいて、その姉が小1の時に『ももいろのきりん』(福音館書店)という絵本の読書感想文を書いて大きな賞を獲って、文集みたいなものに載ったんですよ。それが家のラックに立てかけられていて、「僕も載りたい!」と思って姉の真似事をしたのが始まりです。姉が自由帳にネズミの話を書いているのを見て、僕もマネして書きました。ナビスタとスマイルって名前のネズミの話。ナビスタってなんなのか今でもわからない(笑)。

――幼い頃から本を読むことも好きだったとか。

朝井 好きでした! ですが、他の作家さんたちのように、海外の名作とか古典とかは全く読んでいません。流行ものばかり読んでいたんです。青い鳥文庫が好きで、基本的にはやみねかおるさんの「怪盗クイーン」シリーズと松原秀行さんの「パスワード」シリーズと令丈ヒロ子さんの「料理少年」シリーズの3つを繰り返し繰り返し読んでいました。