それではいってみよう。おのおの「a」「i」「u」「e」「o」しか言葉のない世界の、それぞれの物語である。
「a物語」
画家・ナターシャ=パーマー。あなたは馬鹿だ。あなたが馬鹿だから笑わなきゃ。あからさまなパワハラだ。さわやかな朝は鮮やかな裸だ。バナナやバターがなかなかなサラダだ。だが浅間山はまだまだなだらかだ。バーバパパは頭が柔らかだ。赤坂や香川や神奈川や和歌山からは、アラバマやカナダやパナマは甚だ彼方だ。体はまだ肋がバラバラだ。ラーマーヤナやマハーバーラタはささやかな墓だから、花や魚はまだまだ儚さが。さらばだ、あなたから。画家・ナターシャ=パーマー。あなたがわが宝だ。
正直、いくらでも書ける気がしてしまう。やっぱり「aグループ」は裾野がとても広い。プレイヤーの層が厚い。和語がきわめて多いのが特徴だろう。開放的でのびのびした音のつながりになっていて、声に出して読むと気持ちよくなってくる。なお「だ」を「や」に置き換えると上方言葉チックに出来ます。
「i物語」
力士・入来喜一、非力。シシリーに死にに行き、ビーチにビビり右尻ひりひり、身に危機。力士・入来喜一、君にリーチ。しじみ、ひじき、切り身、雉二匹、日々生き生き。シシリー気に入り、篳篥ピーピー、しみじみ凛々しい響き。騎士に必死に言いに行き、力士・入来喜一、市議に。イージーに二ミリに仕切り、ビリに。意味軋み、字義に厳しいジジイ石井氏に師事。ジジイ石井氏生き字引き。力士・入来喜一、地味に一位に。
助詞が「に」一つだけではどうにもこうにも難しい。「に」という助詞の性質上、ストレートに突っ走るしかできなくなるようで、「力士・入来喜一」は放っておいたらどこまでも遠くに行ってしまった。もう私にはどうすることもできない。
「u物語」
主婦・鶴久すず、ジュース噴く。古巣九州揺すぶるニュース、「ウルフルズ来る」。主婦・鶴久すず、服、靴、輸入する。99ルーブル。旧友、普通手術する頭痛収縮する。鶴久夫婦、乳牛複数売る。主流グループ、フル有休許す。主婦グループ、スープ作る。ウルフルズ、ブルース作る。ぬくぬくする九州・琉球周遊19週、ゆくゆく来る来る、ループするプールぎゅうぎゅう。主婦・鶴久すず、輸入する服、ゆるゆるスースーする。靴、ぬるぬるする。主婦・鶴久すず、鬱。
鶴久はどうやら本当に九州の苗字らしい(そういえばチェッカーズにいたな)。助詞が封じられているからうまくいかないのではないかと思いきや、意外としっかりとしたかたちになった。動詞が使えることと、熟語とカタカナ語の底力だと思う。ありがとう舶来カルチャー。動詞の終止形が矢継ぎ早に出てくるからか、どことなくラップ調になりやすいのも「uの音」の特徴だろうか。もともとこういうことをやり始めたのも、「そういえばウルフルズってすべてuの音だなあ……」と気付いたのがきっかけなので、すべてのはじまりはここにあるのだと言えなくもない。ガッツだぜ。
★さて、次回は「e物語」「o物語」に挑む! これがaiuをはるかに超える難しさで……。