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連載クローズアップ

なぜ日本で韓国の小説がウケるのか “フェミニズム”との切り離せない関係

斎藤真理子(翻訳家)――クローズアップ

「韓国・フェミニズム・日本」と題した特集を組み、86年ぶりの3刷となった文芸誌『文藝』。その特集の増補決定版が、『完全版 韓国・フェミニズム・日本』として出版された。責任編集を務めたのが、翻訳家の斎藤真理子さん。現在15万部のヒットとなっている、普通の女性が普通の人生を送る中で様々なハラスメント被害を受ける過程を描いた韓国の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著)の翻訳者でもある。

斎藤真理子さん ©Yuriko Ochiai

「『キム・ジヨン』が2018年12月に出版された直後に『文藝』から特集のお話をいただきました。日本で韓国の小説がたくさん出版されるようになってきたのは、自国の小説を世界に読んでほしいと、国として発信に力を入れているからでもあります。海外での韓国文学の出版には、国から助成金が出ます。でももちろん、作品に力がなければ、読者はつきません。ここまで韓国文学が読まれるようになってきているのは、1987年の民主化以降に作家になった世代が力をつけてきているから。世界中の文化が流入し、自由にアクセスできるようになった。それらを吸収して、世界の読者に求められる普遍性を備えた作家がたくさん生まれています」

 韓国文学の日本における普及とフェミニズムとの関係は切り離せない。

「フェミニズムはあくまで小説の多様なテーマの一つですが、そもそも今、フェミニズムと無関係な女性作家はほとんどいないのではないでしょうか。日本でも韓国でも小説の読者には女性が多いといわれますが、読者と書き手とは、互いに影響しあっています。今、韓国では特に女性作家の活躍が非常に目立ちますが、彼女たちは、時代の勢いを一身に受けているという感じがします。日本でも、ここ数年で世の中がだいぶ変わった。セクハラを開き直る事務次官、医学部入試での女性差別、伊藤詩織さんの事件など、様々な事象が表面化し、もはや看過できない段階です。これまで女性に我慢を強いてきた社会に限界がきているんです。その中で世界的な「MeToo」運動があり、そこに韓国文学を紹介する流れがはまって、ユニゾンとなり読者が広がったのでは、と思います」

『完全版 韓国・フェミニズム・日本』には、『文藝』には掲載されていない小説やエッセイも多く収められている。

「今回新たにパク・ミンジョン氏とユン・イヒョン氏の短編を収録しています。雑誌の時とは中身が結構違っているので、両方揃えて読んでもらいたいですね」

 最初に読むなら、巻頭に収録されているチョ・ナムジュ「家出」がおすすめだという。

「ある一家のお父さんが家出してしまうお話なんです(笑)。娘からもらったクレジットカードを使っているので足跡は辿れるのですが、結局最後まで帰ってこない。でも父親がいなくとも、残された妻、息子、娘は何とか生きていけてしまう。一方、家にいなくて生活上は役に立っていないように見えても、父親を愛することはできるよね、という話。そう考えると、誰もがちょっと楽になれると思いませんか。

 韓国文学の読者は、自分が生きている社会について考えさせてくれて、読むと実生活に役立つ、という感覚で大切に読んでくださっている気がします。また、この仕事をしていると、日韓の外交問題と文学の関係について聞かれることがあるのですが、本来その2つはあまり関係ないものだと思います。それでも、隣国の人が何を考えているかを知るのに、その国の小説や映画はとても役に立ちますよね。特に小説は、まるごとすべて理解することは難しいけれど、その分、わからない部分を想像力で埋めていくのがかえって効果があるのでは。自分の頭で考えることが本当に大事だと思います」

さいとうまりこ/1960年新潟市生まれ。明治大学文学部考古学専攻卒業。91年からソウル延世大学語学堂に留学。訳書にハン・ガン『すべての、白いものたちの』など。

完全版 韓国・フェミニズム・日本

 

河出書房新社

2019年11月29日 発売

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