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脱サラして仕事もお金もなく、片道2000円台の深夜高速バスに乗ってわかったこととは?

著者は語る 『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スズキナオ 著)

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『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スズキナオ 著)

『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』の著者・スズキナオさんは、WEBサイト「デイリーポータルZ」などを中心に活躍する売れっ子ライター。帯の惹句曰く“若手飲酒シーンの大本命、「チェアリング」開祖、ウェブメディア界の真打ち”。何とも偉人感漂う御仁だが――?

「5年ほど前に、大阪出身の妻が地元に戻って家業を継ぐという話が持ち上がり、僕もそれをきっかけに脱サラして、ライターを名乗ってみようと思って。妻は応援してくれましたが、実際は肩身がめちゃくちゃ狭かったです(笑)。仕事もお金もなく、ふるい友達が恋しくなると、片道2000円台という格安の深夜高速バスで東京と大阪を行き来する。そんな日々の中で、取材して書いた記事をまとめたのが本書です」

 深夜高速バスの往復紀行だけでなく、「チェアリング」のススメや、ふだんは客人に供さない「(実)家系ラーメン」考なども本書には収められている。

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 そこに貫かれているのは、〈考え方次第で、なんでもない日々を少しぐらいは楽しいものにする〉というモットーだ。

「チェアリングは気軽でコンパクトなアウトドアの楽しみ方。持ち運び用の折り畳み椅子を片手に好きな場所を探し歩き、そこに椅子を置いて腰かけて、のんびり過ごす行為を指します。酒場ライターをしている盟友・パリッコさんと僕が始めたのですが、『いい店に行って美味しいものを食べる』の逆というか、それ以外の楽しみ方があるぞ! という試みです。絶景ポイントでなくても、椅子を置いて、落ち着いて眺めてみると、近所の何でもない風景でも特別なものに感じられるんですよ。

 ただ、チェアリングを面白がって実践してくれる人がいる一方で、『路上に居座るなんてマナーが悪い』という意見も当然あります。最近は世の中が厳しくなって、僕のようにどこにも根付けずにフラフラと暮らしている人間が、ゆるく過ごせる余地が少なくなっている気がします。だからこそ、うまく逃げ道を探していきたいですね」